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寒いとカセットボンベのガスが出ない理由|沸点と気化熱で解説

目次

先に要点だけ

  • 原因は沸点です。ノルマルブタンは約マイナス0.5℃で気化しなくなります。
  • 使っているうちに火が弱るのは気化熱で缶自体が冷えるためです。気温だけの問題ではありません。
  • 缶を火であぶる、湯に浸けるのは厳禁です。破裂します。

結論:ガスが「無くなった」のではなく、「気化できていない」だけです

冬のキャンプ、雪の日の停電、寒い納屋での作業。カセットこんろの火がじわじわ弱くなり、やがて消える。

缶を振ると、まだチャポチャポと音がします。ガスは残っているのに、出てこない。

これは故障ではありません。カセットボンベの中身が液体であることから、必然的に起きる現象です。

仕組みが分かれば、対処も、缶の選び方も見えてきます。私は第二種高圧ガス販売主任者の資格を持っています。LPガスの性質という観点から説明していきます。

液体は、沸点を超えないと気体になりません

水を思い浮かべてください。水の沸点は100℃です。

カセットボンベの中身も、同じ理屈で動いています。ただし沸点がはるかに低い。

成分おおよその沸点使える下限の目安
ノルマルブタン約マイナス0.5℃おおむね5℃前後まで
イソブタン約マイナス11.7℃氷点下でも使える
プロパン約マイナス42℃厳寒でも気化する

標準的なカセットボンベの主成分は、ノルマルブタンです。沸点は約マイナス0.5℃。

ここで疑問が湧くはずです。「マイナス0.5℃までは使えるはずなのに、なぜ5℃くらいで弱るのか」

ここが、この記事の核心です。

気温より、缶の温度が問題です

使っている最中、缶を触ってみてください。驚くほど冷たくなっています。結露して、水滴がついていることもあります。

これは気化熱によるものです。

気化には熱が要ります

液体が気体になるとき、熱を必要とします。その熱は、周囲から奪われます。

汗をかいたあと風に当たると涼しく感じますね。あれと同じです。水が蒸発するとき、皮膚から熱を奪っています。

カセットボンベの中では、これが激しく起きています。ガスを使えば使うほど、缶自身が冷えていく。そして冷えれば、さらに気化しにくくなります。

つまり悪循環です。

  1. ガスを使う
  2. 気化熱で缶が冷える
  3. 冷えたので気化しにくくなる
  4. 火が弱くなる
  5. それでも使い続けると、さらに冷える

気温が5℃でも、使用中の缶は0℃を下回ることがあります。だから「気温がマイナスでなければ大丈夫」とはいかないのです。

残量が少ないほど、冷えやすくなります

もうひとつ、見落とされがちな要素があります。

缶の中の液体は、それ自体が熱を蓄えています。液体が多ければ、少しくらい熱を奪われても温度は下がりにくい。

ところが残量が減ると、冷えるスピードが上がります。同じ量のガスを取り出しても、支える液体が少ないためです。

「半分以下になってから急に調子が悪くなった」という経験があれば、これが理由です。

冬に備えるなら、使いかけの缶ではなく新しい缶を持っていくほうが確実です。

消費量が多い機器ほど深刻です

火力の大きい機器ほど、缶は速く冷えます。

機器冷えやすさ
カセットこんろ(弱火)ゆるやか
カセットこんろ(強火)やや速い
ガストーチ速い
カセットガス発電機非常に速い
ガスヒーター速い

とくにカセットガス式の発電機は、連続してガスを消費します。冬に屋外で使うと、缶が凍りつくほど冷えて出力が落ちることがあります。

防災用として備えるなら、この特性は知っておくべきです。停電が起きるのは、たいてい悪天候のときだからです。

「ハイパワー」缶の中身

ここまで読めば、寒冷地向け製品の正体が分かります。

沸点の低い成分を混ぜているだけです。イソブタン、あるいはプロパンを配合し、低い温度でも気化するようにしてあります。

特殊な技術ではありません。缶の裏面の成分表示を見れば、たいてい書いてあります。

ただし、いいことばかりではありません。

  • 価格が上がります。イソブタンはノルマルブタンより高価です。
  • 缶の内圧が高くなります。高温での保管には、より注意が必要です。
  • 暖かい場所では差が出ません。室内で使うだけなら、割高なだけです。

使い分けが現実的だと思います。室内の常用は標準品、屋外や冬季用に寒冷地対応品を数本。これで十分です。

成分と規格の話はカセットボンベの中身と規格にまとめています。

正しい対処と、危険な対処

ここが最も大事な部分です。

缶を直接あたためてはいけません。火にかざす、ストーブに近づける、熱湯に浸ける、ドライヤーを当てる。どれも缶の内圧を急上昇させ、破裂させる可能性があります。カセットこんろの横に缶を置いて温めるのも同じです。実際に、これが原因の事故が起きています。

缶には「40℃以上になる場所に置かない」という警告が書かれているはずです。あたためる行為は、これに真正面から反します。

では、どうすればよいか

  • 使う前に、缶を室内や寝袋の中で温めておく。体温程度なら安全です。
  • 予備の缶を懐に入れておき、交代で使う。冷えた缶は休ませれば回復します。
  • 缶を風に当てない。風防を立てるだけでも冷え方が変わります。
  • 地面に直接置かない。雪や冷えたコンクリートは熱を奪います。板を挟んでください。
  • 寒冷地対応の缶を使う。根本的な対策です。
  • 機器に付属のヒートパネルがあれば使う。こんろの熱を安全に缶へ導く設計のものです。

ポイントは、「冷やさない」ことに力を入れる点です。冷えてしまってから温めようとすると、危険な方法に手が伸びます。

2本を交代で使う方法は、地味ですが効きます。使っていない缶は自然に周囲の温度まで戻ります。

ヒートパネルについて

一部のカセットこんろには、ボンベを適温に保つ機構が付いています。

こんろ本体の熱の一部を、金属板を通じてボンベへ伝える仕組みです。メーカーが設計として組み込んだ、安全な範囲での加温にあたります。

自分で缶を温める行為とは、まったく別のものだと考えてください。前者は制御された設計、後者は無制御な加熱です。

冬季の使用が多いなら、この機構を備えた機種を選ぶ価値があります。

屋外機械にも同じことが起きます

この現象はカセットこんろに限りません。

カセットガスを燃料にする機器は増えています。発電機、ヒーター、トーチ、草刈機。どれも冬に性能が落ちます。

とくに防災用の発電機は要注意です。カタログの出力は、常温での数値です。氷点下の停電時に同じ出力が出るとは限りません。

ガソリン式との比較を含めて、発電機の選び方は発電機の選び方と使い方に書きました。燃料の保管が楽なのがカセットガス式の利点、冬に弱いのが弱点という整理になります。

寒いと、着火そのものが難しくなります

あまり語られませんが、実際に困るのはここです。

ガスが気化しにくいということは、点火の瞬間に必要な濃度のガスが供給されないということでもあります。つまり、火がつくまでに時間がかかります。

ここで起きやすいのが、次の状況です。

  • 点火ボタンを何度も押してしまう。その間もガスは出ています。
  • 周囲に未燃焼のガスが溜まる。LPガスは空気より重く、低い位置に滞留します。
  • ようやく着火したとき、溜まったガスにも一気に引火する。

炎が想定外に大きく上がる原因のひとつです。

対処は単純です。2、3回試してつかなければ、いったんガスを止めてください。そして少し待ち、滞留したガスが散ってから、あらためて点火します。

缶が冷えているのが原因なら、何度押しても結果は同じです。缶を温度の戻った状態にするほうが先になります。

ライターも冷えると使えません

ついでに書いておきます。

使い捨てライターの中身も、多くはブタンです。まったく同じ理由で、寒いとつきません。

冬の屋外で「ライターが壊れた」と思ったら、たいてい壊れていません。ポケットに入れて体温で温めれば復活します。

予備の着火手段として、マッチや、ガスを使わない着火具を持っておくと確実です。冬の屋外作業では、これが効きます。

アウトドア用のOD缶が寒さに強い理由

登山用品店で見かける、丸い形のガス缶があります。OD缶と呼ばれるものです。

これが寒冷地で好まれるのには、理由があります。プロパンやイソブタンの配合比率が高いのです。

CB缶(カセットボンベ)OD缶
主な成分ノルマルブタン中心イソブタン・プロパンの比率が高い製品が多い
低温性能製品による寒冷地向けが充実
入手のしやすさコンビニでも買える専門店中心
価格安い高い
缶の耐圧切り欠き式・比較的低圧向けねじ込み式・高い圧力に対応

OD缶がプロパンを多く配合できるのは、缶とバルブの構造が高い内圧に対応しているからです。CB缶に同じ配合は入れられません。

つまり、寒さへの強さの差は容器の設計から来ています。成分だけの問題ではありません。

なお、CB缶をOD缶用の機器に取り付ける変換アダプタが売られていますが、メーカー純正でないものは推奨できません。この話はCB缶とOD缶の違いに分けて書きました。

冬こそ、換気を忘れないでください

火力の話をしてきましたが、冬に最も危険なのは別のところにあります。

一酸化炭素中毒です。

寒いので窓を閉め切る。テントの入口を閉じる。車中で使う。どれも、冬だからこそ起きやすい行動です。

ガスが燃えるときには酸素を消費します。酸素が不足すると不完全燃焼を起こし、一酸化炭素が発生します。

一酸化炭素は無色無臭です。ガス漏れのような警告の臭いはありません。気づいたときには身体が動かなくなっています。

  • テント内での燃焼器具の使用は避けてください。
  • 車中泊での使用も避けてください。
  • 室内で使うなら、定期的に窓を開けてください。「少し開けている」では不足することがあります。
  • 一酸化炭素警報器を用意する。屋外で使う機会が多いなら、持っておく価値があります。

火力が落ちて不完全燃焼気味になっている状態は、一酸化炭素が出やすい状態でもあります。冬の火力低下は、この面からも軽く見ないでください。

同じ理屈で、発電機の屋内使用も厳禁です。理由は発電機の選び方と使い方に書きました。

判断に迷いやすいこと

Q. 冷えて使えなくなった缶は、もう捨てるしかないですか?

A. いいえ。温度が戻れば、また使えます。

ガスが無くなったわけではありません。室内に持ち込んでしばらく置けば、気化するようになります。

ただし、急いで温めようとしないでください。常温の部屋に置いておくだけで十分です。

Q. 車の中に置いておけば冬でも安心ですか?

A. 冬でも、車内保管はすすめません。

たしかに冬の車内は冷えますが、日が差せば密閉された車内の温度は急上昇します。冬の晴天でも、フロントガラス越しの直射日光で内部が40℃を超えることがあります。

「冬だから」は理由になりません。保管の考え方はカセットボンベの保管方法にまとめています。

Q. 缶を逆さまにすると火力が上がると聞きました

A. 機器が対応していない限り、やらないでください。

逆さにすると液体のまま燃料が送られます。一部のバーナーには、これを前提に設計されたものがあります。

しかし対応していない機器で行えば、異常燃焼を起こします。炎が大きく吹き上がり、火災につながります。取扱説明書に記載がなければ、やらないでください。

Q. 缶が凍りついて外れません

A. 無理に外さず、自然に温度が戻るのを待ってください。

結露した水分が凍って固着している状態です。力任せに外すと、接続部を傷めます。

機器ごと暖かい場所へ移し、しばらく置いてください。お湯をかけるのは避けてください。缶を急激に温めることになります。

ここまでの要点

  • 火が弱るのは、ガス切れではなく気化できていないだけです。
  • 原因は沸点と、使用中に起きる気化熱による自己冷却の2つです。
  • 残量が減るほど、火力の大きい機器ほど、冷えやすくなります。
  • あたためる対処は危険です。冷やさない工夫のほうを選んでください。
  • 寒冷地対応品は、イソブタンなどを配合しただけのものです。

この現象を「缶の不良」だと思っている方は、少なくないと思います。実際には、液化ガスという仕組みが持つ当たり前の性質です。

そして仕組みを知っていることには、実利があります。火にかざして温める、という発想が最初から出てこなくなるからです。事故の多くは、原理を知らないまま「なんとかしよう」として起きています。

ここに挙げた沸点や温度の数値は、代表的な値です。実際の製品は複数の成分を配合しているため、挙動は配合によって変わります。お使いの製品の表示と取扱説明書を確認してください。

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