この記事で分かること
- 中身は液化ブタンを主成分とするLPガスです。製品によってイソブタンやプロパンが混ぜられています。
- 缶の形は1998年のJIS改正で統一されました。きっかけは阪神・淡路大震災です。
- 他社製品でも物理的には装着できます。ただしメーカーが推奨しているのは自社の組み合わせです。
中身はLPガス。缶の形は1998年から統一されています
先に、この記事の要点を書きます。
カセットボンベの中身は液化石油ガス、いわゆるLPガスです。主成分はブタン。プロパンガスと同じ仲間だと考えてください。
そして缶の形状は、日本国内ではJIS規格で統一されています。メーカーが違っても装着できます。
ただし、この「装着できる」と「使ってよい」は別の話です。ここが多くの人が迷うところなので、順を追って説明します。
私は第二種高圧ガス販売主任者の資格を持っています。LPガスの販売所で保安を監督するための資格です。カセットボンベの中身は、まさにこの資格が対象とするガスにあたります。
なお、ここでの話はカセットこんろ用のボンベ(CB缶)についてです。登山やキャンプで使われるOD缶は、形も接続の仕組みも違います。CB缶とOD缶の違いで整理しました。
何が入っているのか
缶の裏面を見てください。「液化ブタン」あるいは「LPG」と書かれているはずです。
主成分はブタンです
ブタンは常温では気体ですが、少し圧力をかけると液体になります。
缶を振ると「チャポチャポ」と音がするのは、そのためです。中に入っているのは液体のブタンで、使うときに気化して出てきます。
この「液体で詰めて、気体で使う」という仕組みが、カセットボンベの容量を成立させています。気体のまま詰めようとすれば、同じ量を入れるのに何百倍もの容積が必要になります。
イソブタンやプロパンが混ぜられる理由
製品によっては、ブタン以外の成分が混ざっています。「ハイパワー」「寒冷地対応」と書かれたものが、それです。
理由は沸点の違いにあります。
| 成分 | おおよその沸点 | 性格 |
|---|---|---|
| ノルマルブタン | 約マイナス0.5℃ | 標準的な主成分。安価 |
| イソブタン | 約マイナス11.7℃ | 低温に強い |
| プロパン | 約マイナス42℃ | 非常に低温に強いが圧力が高い |
沸点とは、液体が気体に変わる温度です。この温度を下回ると、液体のままで出てこなくなります。
ノルマルブタンの沸点は約マイナス0.5℃。つまり、氷点下になると気化しにくくなります。冬にカセットコンロの火が弱くなるのは、この性質のためです。
そこで、より低い温度でも気化するイソブタンを混ぜます。これが「寒冷地対応」の正体です。魔法の技術ではなく、中身の配合を変えているだけです。
ではプロパンを大量に混ぜればいいかというと、そうはいきません。プロパンは沸点が低いぶん、常温での圧力が高くなります。缶の強度と釣り合わなくなるため、配合できる量には限りがあります。
低温での挙動については、寒いとカセットボンベのガスが出ない理由で詳しく書きました。
缶の形が統一された経緯
いまでは当たり前に思えますが、昔はメーカーごとに形が違いました。
転機は1995年の阪神・淡路大震災です。
救援物資としてカセットこんろとボンベが大量に届きました。ところがこんろとボンベのメーカーが違うと装着できず、使えないものが出てしまいます。せっかく届いた物資が活かせない事態になりました。
これを受けて、1998年2月にJIS規格が改正されます。「カセットこんろ」がJIS S 2147、「カセットこんろ用燃料容器」がJIS S 2148です。この改正で、ボンベの形状が一種類に定められました。
缶の上部にあるフランジ(つばの部分)には、切り欠きがあります。この幅も規格で決められており、どのメーカーの製品でも合うようになっています。
災害時にどこのボンベでも使える。この設計思想は、防災の観点から非常に重要です。備蓄を考えるなら、この互換性は大きな利点になります。
では、他社のボンベを使ってよいのか
ここが本題です。
規格が統一されている以上、他社のボンベでも装着はできます。実際に、多くの人がそうしています。
一方で、機器の取扱説明書にはたいてい「当社製のボンベを使用してください」と書かれています。矛盾しているように見えますが、理由があります。
- メーカーは自社の組み合わせでしか試験をしていません。他社製品との組み合わせは、動作を保証する立場にありません。
- 事故が起きたときの責任の所在が曖昧になります。指定外の使い方をしていれば、保証の対象外になり得ます。
- ガスの配合はメーカーごとに違います。形は同じでも、中身の性質は同一ではありません。
私の考えを書きます。
日常的に使うなら、機器と同じメーカーのボンベを選んでください。数十円の差です。取扱説明書に沿って使うほうが、あらゆる意味で安全です。
そのうえで、災害時に手元にあるボンベを使うことは、規格上は可能な設計になっています。それが1998年の統一の目的でもありました。平時は指定品、非常時は互換性に助けられる。この使い分けが現実的だと思います。
ただし、こんろ以外の機器は事情が違います
注意してほしい点があります。
JIS S 2147・S 2148は「カセットこんろ」と、その燃料容器の規格です。
カセットガス式の発電機、トーチ、暖房器具、草刈機。これらはカセットこんろではありません。同じボンベを使いますが、機器側の要求はそれぞれ異なります。
とくに連続して大量のガスを消費する機器では、缶が急激に冷えます。使う条件によって挙動が変わるため、メーカー指定を守る意味がこんろより大きくなります。
取扱説明書に指定がある場合は、素直に従ってください。
法令上はどう扱われるのか
LPガスと聞くと、プロパンのボンベを思い浮かべる方が多いと思います。あれは高圧ガス保安法の規制対象です。
ではカセットボンベはどうか。高圧ガス保安法の適用除外にあたります。
除外の条件は、内容積と圧力で定められています。おおむね次のとおりです。
- 容器の内容積が1リットル以下であること
- 温度35℃における圧力が0.8メガパスカル以下であること(不燃性のフロン類では2.1メガパスカル以下)
市販のカセットボンベは、内容量250グラムのものが標準です。内容積は1リットルを大きく下回ります。液化ブタンの35℃での圧力も、この基準の範囲に収まります。
そのため、容器検査や販売の許可といった規制がかかりません。コンビニでもホームセンターでも、誰でも買えるのはこのためです。
規制がない、は安全という意味ではありません。適用除外は「小型で、一般の人が日常的に使うものだから、大がかりな規制になじまない」という判断です。中身が可燃性ガスであることは何も変わりません。実際、火災や破裂の事故は毎年起きています。
同じ考え方は、パーツクリーナーなどのスプレー缶にも当てはまります。詳しくはパーツクリーナーの保管と危険性に書きました。
知っておくべき、ガスの3つの性質
ここは安全に直結する部分なので、少し丁寧に書きます。
臭いは、あとから付けられています
ガス漏れに気づくのは、あの独特の臭いによってです。
ですが、LPガス自体はほとんど無臭です。あの臭いは、漏れに気づけるように後から加えられています。付臭剤と呼ばれるものです。
玉ねぎが腐ったような、独特の不快な臭い。不快なのは、意図的にそう設計されているからです。心地よい香りでは、危険信号になりません。
つまり、あの臭いがしたらガスが漏れているということです。「気のせいだろう」で済ませないでください。すぐに火気を止め、換気してください。
空気より重いので、下に溜まります
これが、都市ガスとの決定的な違いです。
都市ガスの主成分はメタンで、空気より軽い。漏れれば上に昇ります。だから警報器は天井付近に付けます。
一方、LPガスは空気より重い。漏れれば床を這うように広がり、低いところに溜まります。
ここから、いくつかの実践的な注意が導けます。
- 換気は、低い位置の窓や扉を開けてください。上だけ開けても抜けません。
- 床下、地下室、ピット、側溝では特に危険です。溜まったまま滞留します。
- ベランダも安全ではありません。壁に囲まれていれば、そこに溜まります。
- 足元にある火種に注意してください。ストーブの種火、電気製品のスイッチなど。
ガソリンの蒸気も同じく空気より重い性質があります。「重いガスは下に溜まる」という原則は、燃料を扱ううえで共通して覚えておく価値があります。
燃える濃度には範囲があります
意外に思われるかもしれませんが、ガスは濃すぎても燃えません。
燃焼には、空気とガスの割合に適した範囲があります。薄すぎれば着火せず、濃すぎても着火しません。この範囲を燃焼範囲、あるいは爆発範囲と呼びます。
ブタンの場合、この範囲はおおむね空気中の濃度で1.8%から8.4%程度とされます。プロパンでも2.1%から9.5%程度。いずれもごく狭い範囲です。
怖いのは、ここです。漏れた直後は濃すぎて燃えなくても、拡散するにつれて燃える濃度に入ります。「臭うけれど火はつかないから大丈夫」ではありません。時間差で危険な状態になります。
だから、漏れに気づいたら換気が最優先です。そして換気扇のスイッチを入れないでください。スイッチの火花が着火源になります。窓と扉を手で開けてください。
缶の表示を読む
買うときに見るべき箇所を挙げます。
| 表示 | 意味 |
|---|---|
| 液化ブタン/LPG | 中身の種類 |
| 内容量 250g | ガスの重さ。缶の重さは含みません |
| 使用期限 | おおむね製造から7年程度が目安とされます |
| JISマーク | 規格への適合を示します |
| 高温・直射日光を避ける旨の警告 | 40℃以上の場所に置かないこと |
内容量250グラムというのは、ガスだけの重さです。缶を含めた総重量ではありません。だから使い切った缶を持つと、驚くほど軽くなります。
使用期限については、缶に記載があるものと、製造年月から判断するものがあります。ガスそのものが劣化するというより、缶やパッキンの劣化を見込んだ期限だと考えてください。
サビが浮いている缶、へこんでいる缶は使わないでください。保管場所の選び方はカセットボンベの保管方法で詳しく書きました。
よくいただく疑問
Q. 安いボンベと高いボンベは何が違いますか?
A. 主にガスの配合と、缶の作りです。
安価な製品はノルマルブタン中心。高価な製品はイソブタンの比率が高く、低温での性能が上がります。
室内でカセットこんろに使うだけなら、安価なもので困りません。屋外や冬場に使うなら、配合を確認する価値があります。
Q. 海外製のボンベは使えますか?
A. 形状が合わないものが多く、おすすめしません。
いま説明してきた統一規格は、日本のJISです。海外にはこの規格がありません。輸入品のなかには、見た目が似ていても寸法が異なるものがあります。
無理に取り付けると、ガス漏れの原因になります。国内で流通しているJIS適合品を選んでください。
Q. 残量はどうやって分かりますか?
A. 重さを量るのが確実です。
新品の総重量から、使用後の重量を引けば、減ったガスの量が分かります。空缶の重さを一度量っておくと、以後の判断が楽になります。
振って音を聞く方法もありますが、正確ではありません。とくに備蓄用なら、キッチンスケールで量って記録しておくことをおすすめします。
Q. 缶が冷たくなるのはなぜですか?
A. 液体が気体に変わるとき、周囲から熱を奪うためです。
気化熱と呼ばれる現象です。汗が乾くときに体が冷えるのと同じ理屈になります。
使い続けると缶がどんどん冷え、気化しにくくなって火力が落ちます。これは故障ではありません。ただし、缶を火で温めるのは絶対にやめてください。破裂します。
おわりに
カセットボンベは、ホームセンターで3本セットが数百円で買える、ごく身近なものです。中身を意識する機会はほとんどないと思います。
ですが、あの缶には「液体で詰めて気体で使う」という仕組みと、震災の教訓から生まれた統一規格が入っています。冬に火が弱くなる理由も、缶が冷たくなる理由も、すべて中身の性質から説明がつきます。
仕組みが分かっていれば、使い方の判断ができます。「なぜ温めてはいけないのか」を理解している人は、うっかり火にかけたりしません。
ここに書いた規格や法令の内容は、執筆時点で確認したものです。JIS規格は改正されることがありますし、製品ごとの仕様はメーカーの表示が優先します。使用にあたっては、お手持ちの機器とボンベの取扱説明書を確認してください。
前後の作業については、CB缶とOD缶の違いが参考になります。