要点を先に
- 取り付け作業そのものに、直接の資格要件はありません。ただし付随する作業には必要になります。
- 技術的な壁は真空引き。これを省略すると、数年で壊れます。
- 専用工具が10万円前後。1回のために揃えるものではありません。
- 取り外し時の冷媒放出は、法令上の問題になり得ます。
結論:できなくはない。ですが、すすめません
エアコンの取り付けは、ガス工事や電気工事とは事情が違います。
設置作業そのものを禁じる資格制度は、ありません。
ですが、私はすすめません。理由は3つあります。
- 専用工具が高額です。一式で10万円前後。取り付け工賃の何倍にもなります。
- 真空引きの工程が、成否を分けます。省略すると、数年で冷えなくなります。
- 付随する作業に、資格が必要な場合があります。電源工事と、取り外し時の冷媒回収です。
この記事では、「なぜ業者に頼むのが合理的なのか」を、工具と工程の側から説明します。依頼するときに何を確認すべきかも見えてくるはずです。
資格が必要になる場面
まず、どの作業でどの法令が関わってくるのかを整理しておきます。
| 作業 | 資格 |
|---|---|
| 室内機・室外機の設置 | 直接の資格要件はありません |
| 配管の接続、真空引き | 同上(ただし技術が要ります) |
| 既設コンセントに挿す | 不要 |
| 専用コンセントの新設・交換 | 電気工事士 |
| 電圧の切り替え(100Vと200V) | 電気工事士 |
| 分電盤からの専用回路の増設 | 電気工事士 |
| 壁への配管穴あけ | 資格は不要。ただし構造に注意 |
実際の取り付けでは、電源まわりで資格が必要になるケースが頻繁に発生します。
エアコンのコンセントは、電圧と電流によって差込口の形が異なります。買った機種と既設のコンセントが合わない、というのはよくある事態です。
この場合、コンセントの交換や電圧切り替えが必要になり、電気工事士でなければ施工できません。詳しくは電気工事は資格なしでどこまで?をご覧ください。
冷媒の扱いには法令があります
もうひとつ、見落とされやすい点があります。
エアコンの中には冷媒が封入されています。多くはフロン類と呼ばれる物質です。
この冷媒を大気に放出することについては、フロン類の排出を抑制するための法令が定められています。
エアコンを取り外すとき、配管を単に切断すれば、中の冷媒がそのまま大気へ出ます。これは避けるべき行為です。正しくは「ポンプダウン」という手順で、冷媒を室外機の中へ回収してから外します。取り外しを自分で行おうとする場合、この工程を知らないまま作業する危険があります。
なお、家庭用エアコンの廃棄については、家電リサイクル法の対象となり、定められた経路での引き渡しが必要です。
業務用の機器や、事業者が行う回収については、より厳格な登録制度があります。個別の適用は、お住まいの自治体や販売店にご確認ください。
必要な工具
実際に何が要るのかを見てください。金額の桁が、他の記事とは違います。
| 工具 | 用途 | 目安 |
|---|---|---|
| 真空ポンプ | 配管内の空気と水分を抜く | 15,000〜50,000円 |
| マニホールドゲージ | 圧力の測定と真空度の確認 | 10,000〜30,000円 |
| トルクレンチ(フレアナット用) | 規定の力で締める | 10,000〜20,000円 |
| フレアツール | 配管の先端をラッパ状に加工する | 10,000〜30,000円 |
| パイプカッター | 銅管を切る | 2,000〜5,000円 |
| リーマー・バリ取り | 切り口の内側を整える | 1,000円前後 |
| コアドリル(穴あけ) | 壁に配管穴をあける | 10,000円〜 |
| 水平器 | 室内機とドレンの勾配 | 1,000円前後 |
| モンキーレンチ(2本) | フレアナットの締結 | 3,000〜6,000円 |
| ドライバー、六角レンチ | 各部の固定 | 手持ちで可 |
| 脚立 | 高所作業 | — |
| ガス漏れ検知器 | 接続部の確認 | 10,000円〜 |
上位4つだけで、5万円から13万円になります。
一方、取り付け工賃は標準的な工事なら1万数千円程度が目安とされます。工具代のほうが、何倍も高くつきます。
「何台も自分で取り付ける予定がある」「賃貸経営をしている」といった事情がなければ、経済的に成立しません。
真空引きが、いちばんの山場です
技術的に最も重要な工程です。ここを理解すると、なぜ専用工具が要るのかが分かります。
なぜ空気を抜くのか
配管をつないだ直後、その中には空気と水分が入っています。
これを残したまま冷媒を流すと、次のことが起きます。
- 水分が冷媒やオイルと反応し、内部を腐食させます。
- 水分が凍り、細い通路を詰まらせます。
- 空気が混ざることで、圧力が異常に上がります。
- 圧縮機(コンプレッサー)に負担がかかります。
問題は、これらがすぐには表れないことです。
真空引きを省略しても、取り付けた直後は冷えます。「うまくいった」と思えます。
ですが内部では腐食が進み、数年後に冷えなくなります。そして、その頃には原因が施工にあったことも分からなくなっています。
電気工事と同じ構造です。作業直後に成否を判断できない。だから、正しい手順が守られる仕組みが要ります。
エアパージという古い方法
冷媒を少量放出して、その勢いで空気を押し出す方法があります。エアパージと呼ばれます。
真空ポンプが要らないため、簡便に見えます。ですが、現在は適切な方法とされていません。
- 空気と水分を完全には除去できません。
- 冷媒を大気に放出することになります。環境への配慮に反します。
- 冷媒が不足し、能力が落ちます。
メーカーの施工要領書でも、真空引きが指定されているのが一般的です。「エアパージで済ませる業者」は、その時点で避けたほうがよいという判断材料になります。
フレア加工とトルク管理
もうひとつ、経験と精度が要求される工程があります。
銅管の先端をラッパ状に広げ、その面を押し付けて密閉します。これをフレア加工と呼びます。
| 失敗 | 結果 |
|---|---|
| 加工面に傷がある | そこから冷媒が漏れます |
| 広げ方が不均一 | 密着せず漏れます |
| 切り口のバリを取っていない | 削りかすが内部に入ります |
| 締め付けが弱い | 漏れます |
| 締め付けが強すぎる | フレア部が割れます |
とくに最後の2つ。締め付けの強さには、配管径ごとに規定値があります。
「感覚で締める」が通用しません。弱ければ漏れ、強ければ割れる。だからトルクレンチが必要になります。
そして冷媒漏れは、ゆっくり進行します。1年、2年かけて能力が落ちていきます。原因が特定されないまま「古くなったから」と処理されることも少なくありません。
壁に穴をあけるという判断
配管を通す穴が必要です。すでに開いていればよいのですが、新設する場合は注意が要ります。
- 柱や筋交いを切らないでください。建物の強度に関わります。
- 配線・配管を避けてください。壁の中には電線や水道管があります。
- 外側に向かって下り勾配に。逆だと雨水が入ります。
- スリーブと防水処理を必ず。穴を開けただけでは雨が入ります。
- 賃貸なら、必ず事前に許可を。原状回復の対象になります。
穴あけ自体に資格は不要です。ですが、取り返しがつかない作業であることは変わりません。
下地や配線の探し方については、壁に棚を付ける必要工具にも書きました。棚のネジ穴とは、失敗の規模が違います。
自分でできること
取り付けは業者に任せるとして、日常の手入れは自分でできます。
| 作業 | 頻度 | 効果 |
|---|---|---|
| フィルターの清掃 | 2週間に一度 | 効きと電気代に直結します |
| 吹き出し口の拭き掃除 | 季節ごと | カビとにおいの抑制 |
| 室外機の周囲を空ける | 随時 | 効率が上がります |
| ドレンホースの先端確認 | 季節ごと | 水漏れの予防 |
| 試運転 | シーズン前 | 不具合を早く見つける |
いちばん効くのは、フィルターの清掃です。目詰まりすると風量が落ち、効きが悪くなり、電気代が上がります。
室外機の周囲も見てください。物を置いていたり、雑草に覆われていたりすると、熱を捨てられません。前面と背面に空間が要ります。
そしてドレンホースの先端。虫やゴミで詰まると、水が室内機側に溜まって漏れます。地面に接していないか、潰れていないかを確認してください。
室外機を高圧洗浄機で洗わないでください
関連してひとつ、注意を書いておきます。
室外機の裏側には、細い金属の板(フィン)が並んでいます。ここに高圧の水を当てると、簡単に曲がります。曲がったフィンは風を通さず、効率が落ちます。
また、電装部に水が入ると故障します。
掃除するなら、柔らかいブラシで枯葉やほこりを落とす程度にとどめてください。詳しくは高圧洗浄機の選び方にも書いています。
室外機の置き方も効きます
手入れとあわせて、設置状態も確認してください。
- 直射日光が当たり続ける場所は不利です。日よけを設ける場合も、風の通り道は塞がないでください。
- 吹き出した空気が壁に跳ね返る配置は避ける。捨てたはずの熱を吸い直します。
- 水平に、がたつきなく設置する。振動と騒音の原因になります。
- 雪の多い地域では、架台で高さを取る。埋もれると運転できません。
室外機は熱を屋外へ捨てるための装置です。その熱がうまく逃げなければ、どれだけ高性能な機種でも本来の力が出ません。
「最近効きが悪い」と感じたとき、フィルターの次に見るべき場所がここです。物置の代わりに使われて、周囲を塞がれていることが少なくありません。
業者に頼むときの確認
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 真空引きをするか | 省略する業者がいます |
| 標準工事に何が含まれるか | 配管長、穴あけ、化粧カバーなど |
| 追加費用が出る条件 | 後から増えるのを防ぎます |
| 電源工事の要否 | コンセント形状が合わない場合 |
| 既設機の取り外しと処分 | リサイクル料金と収集運搬費 |
| 工事保証の期間 | 機器保証とは別です |
「真空引きをしますか」と聞いてください。
この一言で、業者の姿勢がかなり分かります。当然のこととして答えが返ってくるなら、まず安心してよいと思います。
そして標準工事の範囲は必ず確認してください。配管の長さが4メートルを超える、化粧カバーを付ける、室外機を屋根置きにする。これらは追加料金の対象になることが一般的です。
質問と回答
Q. 引っ越しで移設したい場合は
A. 業者に依頼してください。取り外しと取り付けの両方が必要です。
取り外しにはポンプダウンの工程があり、取り付けには真空引きが必要です。どちらも専用の工具と手順が要ります。
なお、古い機種では移設費用が新品価格に近づくことがあります。配管の交換が必要な場合はなおさらです。買い替えとの比較も検討してください。
Q. 配管は再利用できますか
A. 条件によります。業者の判断を仰いでください。
冷媒の種類が変わっている場合、古い配管に残ったオイルが問題になることがあります。また、フレア部は再加工が必要です。
「使えます」と即答されるより、状態を見てから判断してくれるほうが信頼できます。
Q. 賃貸に自分で付けてよいですか
A. 事前に管理会社の許可を取ってください。
壁に穴をあける、室外機を設置する、専用コンセントを増設する。いずれも建物に手を加える行為です。
退去時の扱い(残置してよいか、撤去して原状回復か)も、あわせて確認しておいてください。
Q. 工具をレンタルすれば安く済みますか
A. 費用は下がりますが、技術の問題は残ります。
真空ポンプやゲージのレンタルはあります。ですが、フレア加工の精度や、規定トルクの管理は、道具を借りても身につきません。
そして失敗の代償が、数万円の機器そのものになります。1台のためなら、依頼するほうが確実です。
ここまでの要点
- 設置そのものに直接の資格要件はありません。ですが工具代が10万円前後かかります。
- 電源まわりでは、電気工事士が必要になる場面が多いです。
- 真空引きを省略すると、数年後に壊れます。その場では分かりません。
- 取り外し時の冷媒放出は避けるべき行為です。ポンプダウンが必要になります。
- 依頼するときは「真空引きをしますか」と聞いてください。
- フィルター清掃と室外機まわりの手入れは、自分でやる価値があります。
エアコンの取り付けは、法令上「できない」わけではありません。その意味では、ガス工事や電気工事とは違います。
ですが、工具代が工賃を大きく上回り、失敗が数年後に表れる。この2点だけで、依頼する合理性は十分だと思います。
むしろ、この記事を読んで得られる実利は「業者を見る目」のほうです。真空引きの有無を確認できるかどうかで、選ぶ精度が変わります。
なお、法令の適用や必要な手続きは、機器の種類や設置状況によって異なります。冷媒の取り扱いと廃棄については、販売店やお住まいの自治体にご確認ください。