この記事の要約
- 自分の車を、趣味の範囲で整備することは認められています。認証が必要なのは、業として行う場合です。
- ただし「やってよい」と「やるべき」は別。ブレーキ関係は慎重に判断してください。
- 最初に揃えるのはソケットレンチ・トルクレンチ・ジャッキ・リジッドラック。
- 作業別の一覧と、各記事への入口をまとめました。
結論:自分の車なら、法令上は制限されていません
まず、多くの方が気にする点から書きます。
自分が使用する自動車を、趣味の範囲で整備すること。これに、認証を受ける必要はありません。
整備工場が認証を受けているのは、業として、反復・継続的に整備を行うからです。他人の車を預かって、対価を得て整備する。その場合に、設備と人員の基準が課されます。
ここが、ガス・電気・水道とは大きく違うところです。
| 分野 | 自宅・自分の物への作業 |
|---|---|
| ガス工事 | 資格がなければできません |
| 電気工事 | 資格がなければできません |
| 水道工事 | 指定事業者でなければできません |
| 自動車整備 | 自分の車なら可能 |
設備工事との違いは、被害が及ぶ経路にあります。ガスや水道は配管でつながっており、1軒の不備が近隣へ波及します。車は物理的に独立しています。
ただし、整備不良の車が走れば、他人を巻き込みます。だから別の形で規制されています。次に説明します。
法令上の区分を整理します
自動車整備には、認証が必要とされる範囲が定められています。
特定整備とは
従来「分解整備」と呼ばれていた区分に、近年「電子制御装置整備」が加わり、あわせて特定整備と呼ばれるようになりました。
分解整備の対象は、次の装置を取り外して行う整備または改造とされています。
- 原動機(エンジン)
- 動力伝達装置
- 走行装置
- 操縦装置
- 制動装置(ブレーキ)
- 緩衝装置(サスペンション)
- 連結装置
そして電子制御装置整備には、自動ブレーキに使われるカメラやレーダーの調整などが含まれます。
これらを業として行うには、認証が必要です。
友人の車を、頼まれて整備する場合には注意が必要です。無償であっても、繰り返し行えば「業として」と評価される可能性があります。自分の車と、他人の車では立場が変わります。判断に迷う場合は、最寄りの運輸支局にご確認ください。
整備不良は、別の問題です
「自分でやってよい」ことと、「どんな状態で走ってもよい」ことは違います。
ブレーキが効かない、灯火類が点かない、タイヤが摩耗している。こうした状態で公道を走れば、道路交通法上の責任が生じます。
そして事故が起きれば、整備の不備が原因だったかどうかが問われます。
つまり、規制の形は「作業の禁止」ではなく「結果への責任」です。自由がある分、責任も自分に来ます。
作業別の判断表
| 作業 | 難度 | 判断 |
|---|---|---|
| 洗車 | 易しい | 自分で |
| ワイパーゴムの交換 | 易しい | 自分で |
| 電球・バルブの交換 | 易しい | 自分で(車種による) |
| 空気圧の調整 | 易しい | 自分で |
| エアクリーナーの交換 | 易しい | 自分で |
| バッテリーの交換 | やや易しい | 自分で(登録が必要な車種に注意) |
| タイヤの脱着 | 中 | 自分で。トルク管理を厳守 |
| エンジンオイルの交換 | 中 | 自分で。上抜きなら安全 |
| ワイパーブレードごと交換 | 易しい | 自分で |
| 冷却水の補充 | 中 | 自分で。熱いときは開けない |
| ブレーキパッドの交換 | 難しい | 専門店をすすめます |
| ブレーキフルードの交換 | 難しい | 専門店をすすめます |
| サスペンションの交換 | 難しい | 専門店へ |
| 電子制御装置の調整 | 専門的 | 専門店へ。専用機器が必要 |
| エアバッグ関係 | 専門的 | 触らないでください |
この表で、ブレーキ関係を「できない」ではなく「すすめない」と書いているのには理由があります。
自分の車であれば、法令上は可能です。ですが、失敗したときに止まれなくなるという結果の重さが、他とは違います。
そして、フルードのエア噛みのように、作業直後には気づきにくい失敗があります。ここは判断を分けるべき部分だと考えています。
最初に揃える工具
| 工具 | 用途 | 目安 |
|---|---|---|
| ソケットレンチセット(9.5sq) | ボルトの脱着全般 | 5,000〜15,000円 |
| トルクレンチ | 締め付けの管理 | 5,000〜15,000円 |
| フロアジャッキ | 車体を持ち上げる | 5,000〜20,000円 |
| リジッドラック(2基以上) | 持ち上げた車体を支える | 3,000〜10,000円 |
| 輪止め | 車の移動を防ぐ | 1,000〜3,000円 |
| メガネレンチ・スパナ | 狭い場所、共回り防止 | 3,000円〜 |
| プラスドライバー(2番) | 内装、樹脂部品 | 500〜1,500円 |
| 内張り剥がし | 樹脂を傷めずに外す | 1,000円前後 |
| パーツクリーナー | 脱脂、清掃 | 数百円 |
| 耐油手袋 | 手を守る | 数百円 |
| ウマ用の当て板 | アスファルトの沈み込み対策 | 手持ちで可 |
| 作業灯 | 下回りは暗い | 2,000円〜 |
上位4つで、2万円から6万円。ここが基礎になります。
ソケットレンチの差込角は、最初の1本なら9.5sqです。乗用車とバイクの整備を、ほぼこれでこなせます。詳しくはソケットの差込角の選び方にまとめました。
トルクレンチを最初に入れる理由
「まだ早い」と思われるかもしれません。
ですが、車の整備では締め付けの管理が、あらゆる作業に関わります。
- ホイールナット:緩めば脱落、締めすぎればボルトが折れます。
- ドレンボルト:締めすぎればオイルパンが壊れます。
- アルミ部品:鉄より柔らかく、簡単にねじ山が潰れます。
そして、締めすぎの失敗は、その場では分かりません。数か月後、次に外すときに折れる。あるいは走行中に緩む。
感覚で覚えられるものではありません。最初から数値で管理する習慣をつけてください。
安全の前提
ジャッキだけで車の下に入らないでください。この記事で唯一、絶対に守ってほしい点です。油圧は抜けます。予告なく、一瞬で下がります。車の整備における死亡事故の多くが、これに起因しています。リジッドラックは数千円です。命の値段として考えてください。
- 平らで硬い場所で作業する。傾斜地と砂利は避けてください。
- 輪止めをする。サイドブレーキだけに頼らないでください。
- エンジンが冷えてから作業する。排気系は数百度になります。
- 電装系を触る前にバッテリーのマイナスを外す。
- 火気厳禁。燃料とオイルを扱います。
- ひとりのときは、家族に伝えてから。異常時に気づいてもらえます。
最後の項目は、地味ですが重要です。ガレージで挟まれても、誰も気づかないという状況を避けてください。
リジッドラックの選び方は、リジッドラックの選び方に詳しく書きました。耐荷重の表記の読み方で間違いが起きやすい点も説明しています。
車検との関係
自分で整備することと、車検は別の話です。
| 内容 | |
|---|---|
| 車検 | 定められた時期に、保安基準への適合を確認する制度 |
| 日常点検 | 使用者が行う点検 |
| 定期点検 | 定められた間隔で行う点検 |
ユーザー車検という選択肢もあります。自分で車を持ち込み、検査を受ける方法です。
費用は抑えられますが、整備が済んでいることが前提です。検査に通ることと、整備が行き届いていることは、同じではありません。
また、車検の検査項目は限られています。「車検に通ったから安心」ではありません。日常的な点検は、別に必要です。
日常点検でできること
工具がなくてもできる確認です。習慣にする価値があります。
- タイヤの空気圧と、溝の残り。月に一度。
- 灯火類の点灯。ブレーキランプは他人に確認してもらうか、壁の反射で。
- ウォッシャー液の量。
- エンジンオイルの量。レベルゲージで。
- 冷却水の量。リザーバータンクの目盛りで。
- 駐車していた地面のしみ。油や水が漏れていないか。
最後の項目は、簡単で効果があります。いつも停めている場所を、たまに見てください。新しいしみがあれば、どこかから漏れています。
工具代と工賃の比較
自分でやるかどうかは、感情ではなく計算で決めてください。
| 作業 | 頻度 | 自分でやる価値 |
|---|---|---|
| タイヤの履き替え | 年2回 | 高い。数年で元が取れます |
| オイル交換 | 年1〜2回 | 中。廃油処理の手間があります |
| 洗車 | 月1〜2回 | 高い。道具代が安い |
| バッテリー交換 | 数年に1回 | 中。工具はほぼ不要 |
| ワイパー交換 | 年1回 | 高い。工具不要 |
| ブレーキ関係 | 数年に1回 | 低い。リスクが見合いません |
判断の材料は3つです。
- 頻度:何回やるか。工具代を割る回数です。
- 工具代:他の作業にも使えるか。
- 失敗の代償:ここが最も重要です。
3番目で判断が変わります。失敗が命に関わる作業は、金額の計算で決めないでください。
各作業の詳しい記事
| 記事 | こんなときに |
|---|---|
| 洗車に必要な道具 | 傷をつけずに洗いたい |
| タイヤ交換に必要な工具 | スタッドレスへの履き替え |
| バッテリー上がりの対処 | エンジンがかからない |
| エンジンオイル交換に必要な工具 | 上抜きと下抜きで迷ったら |
| リジッドラックの選び方 | 車の下にもぐる前に |
| ソケットの差込角の選び方 | 最初の1本を選ぶ |
| 廃エンジンオイルの捨て方 | 抜いたオイルの処分 |
| パーツクリーナーの保管と危険性 | 整備で使うケミカルの扱い |
細かい疑問に答えます
Q. マンションの駐車場で作業できますか
A. 管理規約で禁止されていることが多くあります。
理由は、油の流出、騒音、他の車への損害といった懸念です。共用部分での作業を制限している物件は少なくありません。
確認してから作業してください。禁止されている場合は、時間貸しのガレージを使う方法があります。工具を借りられる施設もあります。
Q. 整備記録は必要ですか
A. 残しておくと、後で役に立ちます。
- 次の交換時期が分かります。記憶に頼ると曖昧になります。
- 売却時の評価につながります。手入れの履歴は資産価値に関わります。
- 不具合の原因を追いやすくなります。いつ何をしたかが分かります。
日付、走行距離、作業内容、使った部品の品番。これだけ書いておけば十分です。スマートフォンのメモで構いません。
Q. 何から始めればよいですか
A. 工具の要らないものから順に。
- 洗車と日常点検。車の状態を見る目が育ちます。
- ワイパーゴムの交換。工具が要りません。
- タイヤの履き替え。工具を揃える最初の機会です。
- オイル交換。上抜きから。
この順なら、工具が段階的に増え、無駄が出ません。そして各段階で、車への理解が深まります。
Q. 失敗したらどうすればよいですか
A. 走らせる前に、専門店へ相談してください。
いちばん避けたいのは、不安を抱えたまま公道に出ることです。
ボルトを1本余らせた、締め忘れたかもしれない、部品が入らない。こうした状態で走り出さないでください。
また、作業前に写真を撮っておくと、元に戻せなくなったときに助かります。分解の各段階で撮る習慣をつけてください。
Q. 情報はどこで調べますか
A. まず、お乗りの車の取扱説明書です。
ジャッキポイント、油量、締め付けの規定値、指定される部品。これらは車種ごとに違います。一般論の記事より、手元の説明書が正確です。
紛失している場合、メーカーのサイトで公開されていることがあります。型番で調べてみてください。
この記事を含め、ネット上の情報は考え方を知るためのものと位置づけてください。数値は必ず一次情報にあたってください。
Q. バイクでも考え方は同じですか
A. 法令上の枠組みは同じです。自分の車両なら制限されません。
ただし、バイクには倒れるという固有のリスクがあります。作業中の転倒で、車体を傷めるだけでなく、下敷きになる事故も起きています。
メンテナンススタンドを使い、平らな場所で作業してください。サイドスタンドだけに頼らないことが基本です。
最後に要点を
- 自分の車を趣味の範囲で整備することは、認められています。
- 認証が必要なのは業として行う場合。他人の車は立場が変わります。
- 整備不良で走れば、別の責任が生じます。自由と責任は対になっています。
- ジャッキだけで下にもぐらないでください。リジッドラックは必須です。
- トルクレンチを最初から。締め付けの管理が、あらゆる作業に関わります。
- ブレーキ関係は、法令上できても、すすめません。
車の整備は、ガスや電気と違って自由が認められている分野です。自分の車なら、資格を問われません。
ですが、その自由は「安全でなくてよい」という意味ではありません。整備した車で公道に出れば、他人の命に関わります。
だから、判断の軸は法令ではなく「失敗したときに何が起きるか」に置いてください。ワイパーの交換とブレーキの整備は、同じ「できる作業」ではありません。
できることから順に、確実に。それが結局、いちばん早く上達する道だと思います。
なお、この記事は法令の枠組みを整理したものです。個別の作業が特定整備に該当するかどうかの判断や、必要な手続きについては、最寄りの運輸支局または整備事業者にご確認ください。