家庭に消火器を置いている人は、それほど多くありません。しかし、火が出たときに最初の数十秒で消せるかどうかが、被害の大きさを決めます。そして、消火器には種類があり、家庭向けのものは数千円で買えます。問題は、置いてあるだけで使い方を知らない、あるいは十年以上放置されているという状態です。この記事では、選び方、点検の仕方、そして使うときの判断を書きます。
この記事でわかること
- 家庭向けの消火器の種類
- 置く場所と本数
- 使い方と、逃げる判断
- 期限と点検
火が出てからの時間
なぜ備えるのか、その理由を先に整理しておきます。
火は、最初の一分ほどは小さいままです。この間なら、消火器で消せます。
しかし、炎が天井に届くと、状況が変わります。部屋全体が一気に燃え上がる段階に入り、そこからは消火器では歯が立ちません。
つまり、消火器が役に立つのは、ごく短い時間だけです。だからこそ、探して取りに行く時間があってはいけません。すぐ手が届く場所に置いておく必要があります。
そして、消せなかったときに逃げる判断も、同じくらい重要です。
粉を出す型
売り場で最も多く並んでいる、一般的な種類です。
細かい粉を噴き出して、火を覆う仕組みです。木や紙の火災、油の火災、電気の火災。どれにも対応します。
消す力が強く、価格も手ごろです。家庭に一本置くなら、まずこれが候補になります。
ただし、使うと粉が部屋中に飛び散ります。掃除が大変で、電気製品の内部に入ると故障の原因にもなります。
そして、粉は火を覆うだけで、内部の熱を下げません。表面の火が消えても、再び燃え出すことがあります。使った後も、しばらく目を離さないでください。
液体を出す型
粉ではなく、液体を噴き出すという選択肢もあります。
水を主体とした薬剤を霧状に噴き出します。冷やす働きがあるので、再び燃え出しにくい。
粉のように飛び散らないので、後の掃除も楽です。
台所での使用を想定した製品が、この型に多い。油の火災に対応し、しかも後始末が現実的だからです。
製品によって対応する火災の種類が違うので、表示を確認してください。特に、電気の火災に使えるかどうかは、製品ごとに違います。
小型の簡易なもの
缶入りの、スプレーのような形をした製品もあります。
軽く、千円台から買えます。台所の引き出しに入れておける大きさです。
ごく初期の、小さな火なら対応できます。天ぷら鍋から火が出た直後、といった場面です。
ただし、量が少なく、噴き出す時間も短い。本格的な消火器の代わりにはなりません。
補助として持つには価値があります。台所に一本、居間に一本、といった置き方ができます。
置く場所
どれを選ぶかより、どこに置くかのほうが大事かもしれません。
火が出やすい場所の近くに置きます。ただし、そのすぐ横ではいけません。火が出ている場所に手を伸ばすことになります。
台所なら、入口の近く。そこから鍋まで数歩という位置です。
そして、逃げる方向に置いてください。取りに行った先が行き止まりでは、逃げ道を断たれます。
戸棚の奥や、物の後ろに置かないでください。数秒で取り出せない場所は、置いていないのと同じです。
使い方は三つの動作
操作そのものは単純です。ただし、慌てていると手順を飛ばします。
一つめ、上部の安全のためのピンを抜きます。指をかけて、まっすぐ引けば抜けます。
二つめ、ホースを外して、火のほうへ向けます。ホースを持たずに噴射すると、勢いで暴れます。必ず先端を持ってください。
三つめ、レバーを強く握ります。これで薬剤が噴き出します。
この三つです。本体にも図で書かれているので、一度読んでおいてください。実物を手に取って、ピンの位置を確認しておくだけでも違います。
どこを狙うか
噴き出す先を間違えると、量を使い切っても消えません。
炎ではなく、燃えているものの根元を狙ってください。炎に向けても、通り抜けるだけです。
手前から奥へ、掃くように動かします。一点に留めず、面を塗りつぶす感覚です。
距離は、三メートルから五メートル離れた位置から始めてください。近づきすぎると、熱と煙で危険です。
そして、必ず出口を背にしてください。火と自分の間に出口がある状態では、逃げられなくなります。
逃げる判断
ここが、この記事で最も伝えたい部分です。
炎が天井に達したら、消火をやめて逃げてください。この段階を超えると、消火器では消せません。
そして、煙が充満してきたら、それも逃げる合図です。火よりも煙で亡くなる人のほうが多い。視界も奪われます。
逃げるときは、姿勢を低くしてください。煙は上にたまります。床に近いほうが、空気があります。
そして、消防への通報は、消火を試みる前か、誰かに頼んでください。一人なら、まず通報してから消火に移るという順番もあります。消せると思って時間を使い、通報が遅れるのが最悪の流れです。
油の火災の注意
台所で最も起きやすいのが、油の火災です。
調理油が高温になると、自然に発火します。この火に、水をかけてはいけません。水が一瞬で蒸気になり、燃えている油を吹き上げます。火柱が上がり、被害が一気に広がります。
濡れたタオルをかぶせる方法も、同じ理由ですすめられません。
まず、火を止めてください。そして、油の火災に対応した消火器を使うか、専用の消火用具を使ってください。
そもそも、揚げ物をしている間は、その場を離れないこと。これが最大の予防です。
期限がある
買って置いておけば安心、というものではありません。
家庭向けの製品には、使用の期限が示されています。おおむね五年から十年です。本体のラベルに、製造した年と期限が書かれています。
期限を過ぎたものは、正常に噴き出さないことがあります。いざというときに使えなければ、意味がありません。
そして、古い消火器には、さびによって破裂した事例があります。腐食が進んだ状態で内部の圧力がかかると、本体が耐えられなくなります。
さびている、へこんでいる、ラベルが読めない。こうしたものは、触らずに処分の手続きを取ってください。
点検の仕方
年に一度でよいので、状態を見てください。
まず、期限が切れていないか。これが最初です。
次に、本体の外観です。さび、へこみ、傷。特に、底の部分は床と接しているので腐食しやすい。持ち上げて裏を見てください。
圧力を示す計器が付いている製品では、針が緑の範囲にあるか確認します。範囲から外れていれば、使えません。
そして、ホースにひび割れがないか、ピンが抜けかけていないかも見てください。ついでに、家族全員で置き場所を確認しておくと、点検の意味が倍になります。
火災警報器との関係
備えとして、消火器と対になるものがあります。
消火器は、火に気づいてから使うものです。気づかなければ、置いてあっても意味がありません。
だから、早く気づくための警報器と、消すための消火器は、両方あってはじめて機能します。
警報器は、住宅に設置が義務づけられています。付いているか、そして電池が切れていないかを確認してください。
どちらも、年に一度まとめて点検する日を決めておくと、忘れません。
火災の種類を知っておく
消火器のラベルには、対応する火災の種類が記号で示されています。ここを読めると、選ぶときに迷いません。
木材、紙、布などが燃える一般的な火災。これが一つめの区分です。家具やカーテン、ごみ箱の火は、ここに入ります。
二つめが、油の火災です。調理油、灯油、ガソリン。水をかけてはいけない種類で、家庭では台所が主な現場になります。
三つめが、電気の火災です。コンセント、配線、家電から出る火がこれに当たります。感電の危険があるため、水を使う消火は適しません。
家庭に置くなら、この三つすべてに対応した製品を選んでください。売り場では、住宅用と表示されたものが該当します。特定の火災にしか使えない製品を、それと知らずに買ってしまうと、いざというときに使えません。
どこに何本置くか
次に、本数と配置の目安も考えておきましょう。
一般的な広さの住宅なら、しっかりした消火器を一本と、小型のものを一本か二本。この組み合わせが現実的です。
本命の一本は、台所の入口付近が定位置になります。家庭の火災で、出火の場所として最も多いのがここだからです。
二階建てなら、二階にも一本置いてください。階段が使えなくなれば、下の階の消火器は取りに行けません。
暖房器具を使う部屋、電気製品の多い部屋にも、小型のものがあると安心です。特に、石油を使う暖房を置いている部屋は、給油のときの事故が起きやすい場所です。
使った後にすること
火が消えたように見えても、そこで終わりではありません。
まず、消防に連絡してください。自分で消せた場合でも、これは必要です。見えない場所でくすぶっている可能性があり、専門の目で確認してもらう意味があります。壁の内部や天井裏に火が回っていることもあります。
粉を使った場合は、掃除が待っています。掃除機で吸い取り、拭き取ってください。粉は目や喉を刺激するので、マスクをして換気しながら作業します。
食器や調理器具に粉がかかった場合は、よく洗ってから使ってください。
そして、使った消火器は、少しでも噴射すれば残りは信用できません。新しいものに買い替えてください。使いかけを置いておくのは、置いていないのと変わりません。
消火器以外の備え
消火器と組み合わせて考えたい道具もあります。
投げつけて割る形式の、簡易な消火の用具があります。火に向かって投げると、中の薬剤が広がって消します。力の弱い方や、高齢の方でも使えるという利点があります。
ただし、これも量は限られています。ごく初期の火にしか通用しません。
燃え広がりを抑える布もあります。火の上にかぶせて、空気を断つ道具です。天ぷら鍋の火に有効ですが、かぶせ方を誤ると危険なので、使い方を読んでおいてください。
そして、何より大事なのは逃げる道です。玄関までの通路に物を積んでいないか、窓が開くか。火が出たときに使えるかどうかを、普段から意識しておいてください。
集合住宅の場合
マンションやアパートでは、事情が少し違います。
建物には、共用部分に消火器が設置されています。廊下の隅や、階段の踊り場にある赤い箱が、それです。ただし、部屋の中から取りに行くには、いったん外へ出る必要があります。
だから、共用のものがあるからといって、自室に置かなくてよいとはなりません。火が出てから玄関まで走り、廊下へ出て、戻ってくる。この時間で、火は育ちます。
そして、集合住宅では火が隣の住戸へ及びます。自分の部屋の火が、他人の生活を奪うことになります。責任の重さという意味でも、備えておく価値があります。
共用部分の消火器がどこにあるかも、入居のときに確認しておいてください。避難の経路と合わせて頭に入れておくと、いざというときに動けます。
よくある質問
家庭に設置する義務はありますか
一般の住宅には、消火器の設置義務はありません。火災警報器のほうは義務です。ただし、義務がないことと、要らないことは別です。数千円で被害を防げる可能性があると考えてください。
期限が切れたものはどう捨てますか
自治体のごみには出せません。販売店や、指定の引取場所で処理します。有料になることが多い。放置や、自分で分解することは絶対に避けてください。内部に圧力がかかっています。
訪問してきた業者に交換を勧められました
消防を名乗って高額な請求をする事例が報告されています。消防が消火器を販売することはありません。その場で契約せず、いったん断って、自分で販売店を探してください。
使い方を練習できますか
消防署や自治体の防災訓練で、水を使った練習用の消火器を体験できることがあります。一度やっておくと、手順が体に残ります。機会があれば参加してみてください。
まとめ
消火器が役に立つのは、火が出てからのごく短い時間だけです。だから、数秒で手が届く場所に、逃げる方向に置いてください。使うときは、炎ではなく燃えているものの根元を、出口を背にして狙います。そして、炎が天井に届いたら、消火をやめて逃げる。ここを守ってください。期限は五年から十年です。さびた古い消火器は、破裂の危険があるので触らずに処分してください。
処分の手順は消火器の捨て方、警報器の点検は住宅用火災警報器、暖房の安全は暖房器具と一酸化炭素をご覧ください。