高齢の親が一人で暮らしている。帰省するたび、何となく心配になる。この不安を、具体的な点検に変える方法があります。高齢の方の事故は、交通事故より家の中で起きるほうが多い。そして、原因の大半は転倒です。段差、滑り、暗さ、つかまる場所がないこと。どれも、数千円から数万円で減らせます。この記事では、場所ごとの確認と、優先順位を書きます。
この記事でわかること
- 転倒が起きる場所と原因
- 場所ごとの点検の項目
- 費用と優先順位
- 本人と話すときの進め方
家の中で起きている
高齢の方の不慮の事故は、住み慣れた家の中で多く起きています。外出先より、自宅のほうが危険だという事実は、意外に思われるかもしれません。
理由は単純です。家にいる時間が最も長く、そして油断があるからです。慣れた場所ほど、足元を見ずに歩きます。
そして、若いころには何でもなかった数センチの段差が、つまずく原因になります。筋力が落ち、足が上がりにくくなっているためです。
転倒して骨を折ると、そこから寝たきりにつながることがあります。一度の転倒が、生活のすべてを変えてしまう。だから、予防に意味があります。
床の上のもの
最も多く、そして最も簡単に減らせる原因です。
新聞、雑誌、洗濯物、電気のコード。通り道にこうしたものがあると、つまずきます。特に、夜にトイレへ行くときが危険です。
コードは、壁際に沿わせて固定してください。部屋を横切る配線は、延長コードの位置を変えるか、家具の配置を見直してください。
マットやカーペットの縁が、めくれていないかも確認してください。滑り止めを貼るか、いっそ取り除くという判断もあります。敷物は、あることで安全になるとは限りません。
この片づけは、費用がかかりません。今日できることです。
浴室と脱衣所
家の中で、最も事故が起きる場所の一つです。
濡れた床は滑ります。そして、浴槽をまたぐ動作は、片足で立つことになります。この二つが重なります。
手すりを付けると、大きく改善します。浴槽の横と、洗い場の壁。この二か所が基本です。取り付けは業者に頼むことになりますが、介護保険の制度で費用の一部が支給される場合があります。
滑り止めのマットを敷く方法なら、数千円で今日からできます。浴槽の中にも敷けます。
そして、浴室用の椅子を置いてください。立ったまま洗うより、はるかに安全です。高さのあるものを選ぶと、立ち上がりが楽になります。
寒さという危険
浴室には、転倒とは別の危険があります。
暖かい部屋から寒い脱衣所へ移り、熱い湯に入る。この温度の急な変化が、血圧を大きく動かします。ここで意識を失う事故が、冬に多く起きています。
対策は、脱衣所と浴室を温めることです。小型の暖房器具を置く、入浴の前にシャワーで浴室を温める。これだけで、温度差が減ります。
湯の温度を、四十一度以下にすることも有効です。長湯も避けてください。
そして、入る前に家族に声をかける習慣を。一人暮らしなら、入浴の時間帯を誰かに伝えておく方法もあります。
階段と段差
転落は、転倒より重い怪我につながります。
階段に手すりがないなら、優先して付けてください。片側だけでも、ないのとは全く違います。
段の縁が見えにくい場合、滑り止めのテープを貼ると輪郭がはっきりします。目立つ色を選んでください。見た目より、見えることを優先してください。
家の中の小さな段差も、危険です。廊下と部屋の境、敷居、浴室の入口。ここに斜めの板を置いて、段差をなくす製品があります。数千円です。
玄関の上がりかまちも、高さがあります。ここに台を置くと、上り下りが二段に分かれて楽になります。
明るさ
見落とされやすい要素です。
年齢とともに、必要な明るさは増えます。同じ照明でも、若いころより暗く感じています。本人は気づいていないことが多い。
電球が切れたまま、あるいは暗いままの場所がないか確認してください。特に、階段、廊下、玄関。
夜間の動線には、人が近づくと点く照明が有効です。コンセントに差すだけの製品が、千円台からあります。電池で動くものなら、配線も要りません。
寝室からトイレまでの経路を、暗い中で歩いてみてください。どこが見えにくいかが分かります。
トイレ
立ち座りの動作が、繰り返される場所です。
便座からの立ち上がりは、脚の力を使います。手すりがあると、腕で補えます。壁に付ける形式のほか、床に置く形式の製品もあります。
便座の高さを上げる補助具もあります。低い位置から立ち上がるほど、負担が大きくなります。
そして、扉の開き方も確認してください。内側に開く扉だと、中で倒れたときに外から開けられません。引き戸に変える、外開きに変える工事があります。
夜間に何度も使う場所なので、寝室から近いことも重要です。部屋の配置を変えられるなら、検討する価値があります。
台所の危険
火に関わる場所です。
消し忘れが心配なら、自動で消える機能の付いたコンロに替える方法があります。今の製品には、この機能が付いています。
電気で加熱する方式に変える選択もありますが、使い方が変わるので本人が戸惑うこともあります。慣れた道具を変えることには、別の難しさがあります。
そして、高い場所に物を置かないでください。取ろうとして、椅子に乗る。これが転落の原因になります。よく使うものを、手の届く高さに移してください。
踏み台を使うなら、手すりの付いたものにしてください。折りたためる製品が、数千円であります。
家具の固定
地震への備えですが、日常にも関わります。
倒れてくる家具は、逃げる速さが落ちた人にとって、より危険です。寝室に背の高い家具があるなら、固定するか、移動させてください。
そして、寝ている位置の周りを確認してください。頭の上に物が落ちてこないか。倒れた家具が、出口をふさがないか。
ガラスの入った扉には、飛散を防ぐシートを貼ってください。割れた破片を踏むと、足を切ります。
枕元に、履物と明かりを置いておくことも伝えてください。停電した夜に、裸足でガラスの上を歩くことになります。
火災への備え
気づくのが遅れると、逃げ遅れます。
火災の警報器が付いているか、そして電池が切れていないかを確認してください。設置が義務づけられてから年数が経っており、電池の寿命を迎えている家が増えています。
本体そのものも、十年で交換が推奨されています。ボタンを押して、音が鳴るか試してください。
そして、消火器を置くなら、台所の入口付近に。ただし、高齢の方が重い消火器を扱えるかは考えてください。軽い簡易な製品のほうが、現実的な場合があります。
暖房器具の周りに、洗濯物や新聞を置いていないかも見てください。
連絡の手段
倒れたときに、助けを呼べるかどうかです。
電話が、家の一か所にしかないと、そこまで行けません。携帯電話を、常に身に着ける習慣があるか確認してください。
自治体が、緊急時に通報できる装置を貸し出している場合があります。首から下げる形のものや、部屋に設置する形のものです。条件や費用は地域で違うので、窓口に問い合わせてください。
民間の見守りの仕組みもあります。電気の使用量から異変を知らせるもの、定期的に連絡が来るもの。生活を変えずに導入できるものが増えています。
そして、近所の方に、ひとこと伝えておくことも大切です。何かあったときに、最初に気づくのはその人たちです。
優先順位を決める
すべてを一度にはできません。
まず、費用のかからないことから。床の片づけ、コードの整理、電球の交換。これらは帰省した日にできます。
次に、数千円でできること。滑り止めのマット、段差を解消する板、夜間の照明、浴室の椅子。この段階で、危険はかなり減ります。
そして、工事が必要なもの。手すりの設置、扉の変更、段差の解消。ここは費用も時間もかかるので、計画を立ててください。
介護保険の認定を受けていれば、住宅の改修に補助が出る制度があります。自治体の窓口や、担当の相談員に聞いてください。
本人とどう話すか
ここが、実はいちばん難しい部分です。
老いを前提にした提案は、本人の自尊心に触れます。危ないから、という言い方は、できないことを指摘されたと受け取られます。
だから、便利だから、という角度で話してください。手すりがあると立ち上がりが楽だ、明るいほうが物が見つけやすい。実際、そのとおりです。
そして、一度に全部を変えようとしないでください。生活の形を急に変えられることへの抵抗は、当然のものです。
本人が困っていることから始めるのが、最も受け入れられます。何か不便なことはないかと聞くところから、始めてみてください。
本人の状態も見る
家の点検と合わせて、本人の変化にも目を向けてください。同じ家でも、体の状態が変われば危険の度合いが変わります。
歩き方が変わっていないか。以前より歩幅が小さくなった、すり足になった、壁に手をつくようになった。こうした変化は、転倒の危険が上がっている合図です。
履いているものも確認してください。かかとを踏んだ状態のサンダル、底のすり減った室内履き。これらは滑ります。かかとを包む形のものに替えるだけで、安定します。
そして、視力と聴力です。見えにくくなれば段差に気づけず、聞こえにくくなれば警報器の音にも気づけません。健康診断や、眼科での確認をすすめてください。
薬の影響もあります。ふらつきが出る薬を飲んでいることもあるので、気になるなら医師に相談してください。
季節ごとの確認
危険の中身は、季節によって変わります。
夏は、熱中症です。高齢の方は暑さを感じにくく、喉の渇きにも気づきにくい。室温を測る器具を見えるところに置き、数字で判断できるようにしてください。冷房を我慢する習慣がある世代なので、使ってよいと伝えることにも意味があります。
冬は、入浴時の温度差と、暖房器具による火災です。そして、雪の降る地域なら、雪かきの作業そのものが大きな負担になります。無理をさせない仕組みが要ります。
梅雨の時期は、床が湿って滑りやすくなります。玄関のたたきや、脱衣所の床に注意してください。
帰省の時期に合わせて、その季節の危険を確認する。年に二回でも、続ければ変化に気づけます。
庭と屋外の確認
家の外にも、見るべき場所があります。
玄関までの通路に、ひび割れや浮きがないか。コンクリートの割れは、つまずきの原因になります。数センチの段差でも危険です。
そして、庭の手入れを本人が続けているなら、その内容を聞いてください。脚立に乗る、木に登る、高い枝を切る。こうした作業は、年齢とともに危険が増します。業者に頼む費用と、事故の代償を比べてください。
屋根の雪下ろしも同じです。長年やってきたからと続けている場合が多いのですが、事故の多くはこの状況で起きています。
頭ごなしに止めるのではなく、代わりの手段を用意してから話すほうが、受け入れられます。
よくある質問
手すりは自分で付けられますか
体重を支える部品なので、下地のある位置に確実に固定する必要があります。石こうボードだけに留めると、力がかかったときに抜けます。倒れる先に手すりがあるという状況は、かえって危険です。業者に頼んでください。
離れて住んでいて、頻繁には行けません
帰省したときに、一度まとめて点検してください。写真を撮っておけば、離れていても業者に相談できます。地域の相談窓口に連絡すれば、訪問して助言を受けられる仕組みもあります。
片づけを本人が嫌がります
勝手に捨てると、関係が悪くなります。まず、通り道の確保だけに絞ってください。全部を片づける話にせず、ここを歩けるようにしたい、という限定した提案にすると通りやすくなります。
どこに相談すればよいですか
自治体に、高齢の方の相談を受ける窓口があります。名称は地域で違いますが、住宅の改修から見守りまで、まとめて相談できます。まずここに電話するところから始めてください。
まとめ
高齢の方の事故は、家の中で起きています。そして、多くは転倒です。まず、通り道の床にあるものを片づけてください。費用はかかりません。次に、浴室の滑り止め、段差を解消する板、夜間の照明。ここまでで数千円です。手すりの設置は工事になりますが、介護保険の補助が使える場合があります。そして、提案は危ないからではなく、便利だからという角度で伝えてください。