災害への備えというと、道具や食料をそろえる話になりがちです。しかし、その前に決めておくべきことがあります。自分の家は、どんな災害で危険になるのか。そのとき、逃げるのか、留まるのか。そして、家族とどう連絡を取るのか。この三つが決まっていないと、道具があっても動けません。この記事では、地図の読み方と、家族で決めておくことを書きます。
この記事でわかること
- 自分の家の危険を知る方法
- 逃げるか留まるかの判断
- 避難する場所の種類
- 家族との連絡の取り決め
まず地図を見る
自治体が、災害の危険を地域ごとに示した地図を作っています。役所の窓口でもらえますし、インターネットでも公開されています。
この地図には、川があふれたときにどこまで水が来るか、どの深さまで浸かるかが色分けされています。土砂が崩れる危険のある区域、地震で揺れやすい地域も、別の地図で示されています。
まず、自分の家がどこに当たるかを確認してください。これが、すべての出発点です。何も色が付いていない場所と、深く浸かると示された場所では、取るべき行動がまったく違います。
そして、勤務先や、子どもの学校についても同じように見ておいてください。家族がばらばらの場所にいるときに、災害が起きる可能性のほうが高いのです。
逃げるか留まるか
避難と聞くと、家を出て別の場所へ移ることだと思われがちです。しかし、常にそうとは限りません。
浸水の深さが示されていない場所、あるいは浅い場所に住んでいて、建物が頑丈なら、家にいるほうが安全な場合があります。暴風雨の中を移動するほうが危険だからです。
集合住宅の上の階に住んでいるなら、なおさらです。浸水しても、上の階まで来なければ、そこが避難の場所になります。
一方、土砂の危険がある区域に住んでいるなら、留まるという選択はありません。崩れれば、建物ごと巻き込まれます。早い段階で、その場を離れる必要があります。
この判断は、その場で考えるものではありません。地図を見た時点で、あらかじめ決めておいてください。
逃げる場所の種類
家を出ると決めた場合、その行き先にもいくつかの選択肢があります。
一つは、自治体が指定した避難の場所です。学校や公民館が使われます。ただし、災害の種類によって、開設される場所が違うことがあります。地震のときに開く場所と、水害のときに開く場所は、同じとは限りません。
もう一つが、親戚や知人の家です。危険のない場所に住む人がいれば、そちらのほうが快適に過ごせます。あらかじめ話をつけておいてください。
ホテルに泊まるという選択もあります。台風のように、来ることが分かっている災害なら、前もって予約できます。費用はかかりますが、確実に安全な場所で休めます。
車の中で過ごす人もいますが、長時間同じ姿勢でいると、体調を崩す危険があります。足を伸ばせる工夫をしてください。
経路を歩いてみる
行き先を決めたら、地図で確認するだけでは足りません。
一度、実際に歩いてみてください。かかる時間が分かりますし、途中に何があるかも見えてきます。地図の上では近くても、実際には遠いと感じることがあります。
川を渡る橋、急な坂、狭い道で塀が続く場所。こうした場所は、災害時に通れなくなる可能性があります。別の経路も考えておいてください。
夜に歩いてみると、また違って見えます。街灯が少ない、足元が見えない。停電していれば、さらに暗くなります。
高齢の方や小さな子どもがいるなら、その人の速さで歩いてみてください。想定より、はるかに時間がかかります。
早めに動く
次に、いつ行動を起こすかという話です。ここで結果が分かれます。
水害では、水が来てから動くのでは遅い。道路が冠水すると、どこが側溝か分からなくなります。膝の深さでも、流れがあれば歩けません。
だから、雨が強くなる前、まだ明るいうちに動いてください。空振りでかまいません。何も起きなかったなら、それでよかったということです。
高齢の方や、体の不自由な方がいる家庭では、さらに早く動いてください。準備にも移動にも、想定より時間がかかります。
自治体が出す情報には段階があり、どの段階で誰が動くべきかが決められています。自分の家族がどの段階に当たるか、確認しておいてください。
連絡の取り決め
災害は、家族がそれぞれ別の場所にいるときに起きます。
大きな災害では、電話がつながりません。回線が混み合い、通信の規制がかかります。かけ続けても、無駄に時間と電池を使うだけです。
そこで、伝言を残す仕組みが用意されています。電話で使うものと、インターネットで使うものがあります。使い方を、家族全員が知っている必要があります。
毎月決まった日や、防災の日に、体験できる期間が設けられています。一度、家族で試してみてください。知っているのと、使ったことがあるのとでは違います。
遠くに住む親戚を、連絡の中継地点にする方法もあります。被災地の中どうしより、外を経由するほうがつながりやすい。
集まる場所を決める
連絡がまったく取れない場合に備えて、決めておくことです。
第一の集合場所と、そこが使えないときの第二の場所。最低でも、この二か所を決めておいてください。
自宅が無事なら自宅、駄目なら近くの避難の場所。この程度の単純な取り決めで十分です。複雑にすると、覚えられません。
そして、家を出るときには、どこへ行ったかを紙に書いて残してください。玄関の内側に貼っておけば、後から来た家族が分かります。ただし、外から見える場所に貼ると、留守だと知らせることになります。
子どもには、学校にいるときは学校の指示に従うこと、そして迎えに行くまでその場で待つことを、はっきり伝えておいてください。
持っていくもの
持ち出す荷物は、思い切って絞ってください。
移動しながら持てる量には、限りがあります。重い荷物は、途中で動けなくなる原因になります。両手が空く形の鞄を選んでください。
最優先は、薬です。持病のある方は、数日分を常に持ち出せる状態にしておいてください。処方の内容を書いた紙も、一緒に入れておくと役立ちます。
次に、水、明かり、そして携帯電話とその電源。身分を証明するものの写しも、あると手続きが楽になります。
食料や着替えは、避難の場所で配られることもあります。まずは、最初の数時間を乗り切れる分があれば足ります。
家を出るときにやること
家を出る直前、短い時間でできる作業です。
ガスの元栓を閉め、電気のブレーカーを落としてください。停電から復旧したときに、倒れた電気製品から出火することがあります。
戸締まりも、忘れないでください。避難して無人になった家が狙われる例が、実際に報告されています。
浸水が予想されるなら、貴重品と、濡らしたくないものを上の階へ移してください。床に置いたものを、少し上げておくだけでも違います。
ただし、こうした作業に時間をかけて、避難そのものが遅れては本末転倒です。物より、命のほうが優先です。
集合住宅の場合
集合住宅では、戸建てとは条件が違います。
上の階にいれば、浸水の危険は小さくなります。ただし、停電すると水を上げるポンプが止まり、断水します。エレベーターも使えません。
つまり、家にいられても、生活は厳しくなります。高い階に住んでいるなら、階段で水を運ぶ場面を想定して、備蓄を多めにしてください。
地震では、家具が倒れて出口をふさぐことがあります。玄関までの経路に、倒れるものを置かないでください。
そして、建物の防災の計画がどうなっているか、管理組合に確認しておいてください。備蓄がある建物もあります。
年に一度見直す
一度決めたことも、時間が経てば古くなります。
家族の構成が変わる、引っ越す、子どもが成長する。そのたびに、前提が変わります。
地図そのものも、更新されます。治水の工事で状況が変わることもあれば、想定される雨量が見直されることもあります。
防災の日や、年の初めなど、日を決めて見直してください。備蓄の期限を確認する日と、同じ日にするとまとまります。
そして、この話を家族でするという行為自体に意味があります。自分の頭の中にあるだけの計画は、誰とも共有されていません。
災害の種類で行動が変わる
ひとくちに災害といっても、取るべき行動はまったく違います。ここを分けて考えておくと、迷いが減ります。
地震は、前触れなく起きます。だから、事前に逃げるという行動が取れません。備えは、家具を固定する、逃げ道を確保する、といった日常の準備になります。揺れが収まってから、建物の状態を見て判断します。
台風や大雨は、来ることが分かっています。数日前から予報が出るので、準備する時間があります。この種類の災害では、早く動けるかどうかがすべてです。
火事は、自分の家からも、隣からも起きます。逃げる以外の選択がなく、しかも数分で判断する必要があります。
この三つで、備えの中身が違います。自分の地域で起きやすいものから、優先して考えてください。
情報をどこから得るか
行動を決める材料になるのは、正確な情報です。
自治体からの連絡を受け取る仕組みに、登録しておいてください。携帯電話に直接届くので、気づくのが早くなります。多くの自治体で、無料で使えます。
電池で動くラジオも、用意しておいてください。停電しても、通信が混み合っても、情報が入ります。手回しで発電できる製品なら、電池切れの心配もありません。
そして、災害時には根拠のない情報も流れます。出どころの分からない話を、そのまま広めないでください。自治体や報道機関の発表を確認してから動いてください。
携帯電話の電源は、限られた資源になります。不要な通知を切り、画面を暗くして、持たせてください。充電できる電池を一つ持っておくと、安心感が違います。
近所との関係
最後に、備えのなかで見落とされがちなことを書いておきます。
大きな災害では、公的な支援がすぐには届きません。最初に助けてくれるのは、隣に住んでいる人です。がれきの下から助け出された人の多くが、近隣の住民によるものだったという記録もあります。
だから、普段からの挨拶に意味があります。誰がどこに住んでいるか、高齢の一人暮らしがどこにいるか。この情報が、いざというときに人の命を左右します。
地域の訓練があれば、一度参加してみてください。避難の場所がどこか、どういう流れになるかが分かります。顔を合わせておくだけでも、当日の動きが変わります。
そして、自分が助ける側に回る可能性も考えてください。備えを少し多めに持っておくと、分けることができます。
そして、備えとして何より効くのは、家族でこの話を一度することです。誰がどこへ行くのか、どうやって連絡するのか。十五分あれば決められます。その十五分が、いざというときの数時間を左右します。
よくある質問
ペットはどうしますか
一緒に避難することが基本とされていますが、受け入れの形は自治体によって違います。同じ部屋で過ごせるとは限りません。事前に確認し、ケージや餌を用意しておいてください。
避難の場所が遠くて行けません
移動が危険な状況なら、家の中で少しでも安全な場所へ移ることも避難です。水害なら上の階、建物の中でも崖から離れた側。その場でできる最善を取ってください。
賃貸でも備える必要がありますか
住んでいる場所の危険は、所有か賃貸かに関係ありません。むしろ、引っ越したばかりなら地域の情報を知らないぶん、早めに確認する必要があります。
どこまで備えればよいか分かりません
まず、地図で自分の家の危険を知ることから始めてください。それだけで、何が必要かが見えてきます。全部を一度にやろうとせず、今日は地図を見る、来週は経路を歩く、と分けて進めてください。
まとめ
備えの第一歩は、道具をそろえることではありません。自治体の地図で、自分の家がどんな災害で危険になるかを知ることです。そのうえで、逃げるのか留まるのかを先に決めてください。逃げるなら、経路を一度歩いてみる。そして、家族との連絡の方法と、集まる場所を二か所決めておく。ここまでやって、はじめて道具が意味を持ちます。年に一度、日を決めて見直してください。
持ち出す道具は防災用に備える道具、水の備蓄は災害に備える水の備蓄、停電の対応は停電したときの対応をご覧ください。