災害への備えで、最も優先すべきものは水です。食べ物がなくても数日は生きられますが、水が断たれると数日で命に関わります。そして、断水は地震だけで起きるものではありません。台風、大雪、水道管の破裂、浄水場の事故。都市部でも、数日から一週間規模の断水が実際に起きています。この記事では、必要な量の考え方と、備え方、そして断水したときの使い方を書きます。
この記事でわかること
- 一人あたりに必要な量
- 備蓄の方法と入れ替え
- 断水したときの使い方
- 給水所へ行くときの道具
一日三リットルという目安
飲む水と、調理に使う水を合わせて、一人一日三リットル。これが広く使われている目安です。
三日分なら九リットル、一週間分なら二十一リットル。四人家族で一週間なら、八十四リットルになります。二リットルの容器で四十二本です。
この数字を見て、多いと感じるはずです。実際、置き場所の問題が出ます。だから、まず三日分を確保し、そこから増やしていく進め方が現実的です。
そして、これは飲用と調理の分だけです。手を洗う、体を拭く、トイレを流す。こうした生活用水は、別に考える必要があります。
生活用水は量が違う
意外と見落とされるのが、飲む以外に使う水です。こちらのほうが、量としてははるかに多い。
トイレを一回流すのに、数リットルから十リットル前後を使います。一日に何度も使えば、飲む水の何倍もの量になります。
この用途には、飲める品質の水である必要がありません。だから、備え方も置き場所の考え方も変わってきます。
浴槽に水を張っておく方法が、よく知られています。一杯で二百リットル前後。これがあるだけで、生活の余裕がまったく変わります。次に入るまで抜かない、という習慣にするだけで済みます。
ただし、小さな子どもがいる家庭では、溺れる事故の危険があります。浴室に鍵をかける、水位を下げるといった対策を併せてください。
備蓄の形を選ぶ
飲む水を、どういう形で用意するかです。いくつかの選択肢があります。
市販の飲料水が、最も手軽です。二リットルの容器なら、箱で買えます。賞味期限は、多くが一年から二年です。
長期の保存を前提にした製品もあります。五年や十年もつものがあり、入れ替えの手間が減ります。ただし、価格は高くなります。
五百ミリリットルの小さい容器も、いくらか混ぜておいてください。開けたら飲み切れるので、衛生的です。持ち出す場合にも扱いやすい。
そして、水道水を自分で汲み置きする方法もあります。清潔な容器に入れ、直射日光を避けて保存すれば、三日程度はもちます。ただし、これは長期の備蓄には向きません。
入れ替えを回す仕組み
備蓄でいちばん多い失敗が、期限切れです。買った時点で満足してしまうためです。
押し入れの奥にしまい込むと、何年も忘れます。いざ必要なときに、期限が数年前だったという話をよく聞きます。
だから、普段使う場所に置いて、使ったら買い足すという形にしてください。多めに買って、古いものから消費していく。これなら、常に一定量が家にあり、期限も新しく保てます。
置き場所は、一か所にまとめないほうが安全です。倒れた家具の下敷きになったり、その部屋に入れなくなったりします。台所、寝室、玄関の収納と、分散させてください。
車にも、数本積んでおくと安心です。外出先で被災する可能性もあります。ただし、夏の車内は高温になるので、こまめに入れ替えてください。
保管の条件
水は腐らないと思われがちですが、保管には条件があります。
直射日光を避けてください。光が当たり続けると、容器の中で藻が育つことがあります。ベランダや窓際は向きません。
高温になる場所も避けてください。容器の材質が劣化し、中身にも影響が出ます。
そして、においの強いものの近くに置かないでください。樹脂の容器は、においを通します。灯油や洗剤、防虫剤の近くに保管した水は、飲めなくなります。これは実際によくある失敗です。
床に直接置くより、少し浮かせたほうが安全です。浸水したとき、汚れた水に浸かるのを防げます。
断水したら最初にやること
ここからは、実際に水が止まったときの行動です。順番があります。
まず、蛇口を閉めてください。開けたままにしておくと、復旧したときに水が出続けます。不在中なら、家が水浸しになります。
次に、使える水をかき集めます。浴槽に残っている水、やかんや鍋の水、給湯器の中に残っている水。給湯器には、数十リットルの水が入っている機種があり、非常時の水として取り出せる場合があります。説明書を確認してください。
そして、情報を集めてください。原因が何か、復旧の見込みはいつか、給水所はどこか。自治体の発表を確認します。
断水が長引くと分かったら、早めに給水を受けに行ってください。時間が経つほど、混みます。
水を運ぶ道具
給水所へ行くとき、入れる容器がなければ水をもらえません。ここは盲点になりがちです。
折りたためる容器が、数百円から売られています。使わないときは小さくたためるので、備えておいて損がありません。十リットルから二十リットルのものが一般的です。
ただし、二十リットルは二十キロです。女性や高齢の方が持ち運ぶには、重すぎます。十リットルのものを複数持つほうが、現実的です。
運ぶ手段も考えてください。台車、キャリーカート、あるいはリュックに入る形のもの。手で提げて何百メートルも歩くのは、想像以上につらい作業です。
容器がなければ、丈夫なごみ袋を段ボール箱に入れて使う方法もあります。ただし、破れやすいので、袋は二重にしてください。
トイレをどうするか
断水で最も困るのが、トイレです。ここを軽く見ないでください。
水があっても、流してよいとは限りません。地震の後は、下水の管が壊れている可能性があります。流すと、途中で漏れて建物の中にあふれることがあります。集合住宅では、下の階に被害が出ます。
だから、地震の後は、下水が無事だと確認できるまで流さないでください。管理会社や自治体の案内を待ちます。
そこで、携帯用のトイレを備えておいてください。便器に袋をかぶせ、凝固剤で固める形式です。一人一日五回として、家族の人数と日数を掛けた数を用意します。
これは、水の備蓄と同じくらい優先度の高い備えです。実際の災害では、トイレの問題で体調を崩す人が多く出ます。水分を控えるようになり、それが健康を損ねるという流れです。
水を節約する使い方
限られた水で日々を過ごすための工夫も、知っておくと役立ちます。
食器に、ラップや食品用の袋をかぶせて使ってください。食べ終わったら、ラップだけ捨てる。洗う水が要りません。
紙の皿や、割り箸も有効です。日数分を見込んで備えておくと、洗い物から解放されます。
体を拭くための、水の要らない製品もあります。ウェットティッシュ、水の不要な洗髪剤。こうしたものが、衛生を保つ助けになります。
手を洗う代わりに、アルコールの消毒剤を使う方法もあります。ただし、目に見える汚れが付いている手には効きません。その場合は、拭き取ってから使ってください。
そして、調理に使った水は捨てないでください。野菜をゆでた汁は、そのままスープの出汁として使えます。
飲めるかどうかの判断
非常時に手に入る水について、飲んでよいかの注意点があります。
汲み置きした水は、時間が経つと雑菌が増えます。においや濁りがあるものは、飲まないでください。
煮沸すれば多くの菌は死にますが、化学的な汚染は除けません。断水の原因が汚染なら、煮沸では対応できません。
浴槽にためた水は、あくまで生活用水として考えてください。飲用には向きません。
そして、体調を崩している人、小さな子ども、高齢の方には、確実に安全な水を優先して回してください。
復旧したあと
水が戻ってからも、やっておくことがあります。
最初に出てくる水は、濁っていることがあります。管の中の汚れが流れ出るためです。しばらく流し続けて、澄んでから使ってください。
濁った水が出ている間は、洗濯機を使わないでください。衣類に色が付き、落ちなくなることがあります。
給湯器や浄水器にも、汚れが入っている可能性があります。取扱説明書に、断水後の手順が書かれている機種があります。
そして、使った備蓄を補充してください。ここを後回しにすると、次のときに何もありません。
断水はどんなときに起きるか
備えの必要性を実感するために、原因を整理しておきます。地震だけを想定していると、備えが偏ります。
地震では、水道管が折れたり継ぎ目が抜けたりします。広い範囲で止まり、復旧にも時間がかかります。建物の中の配管が壊れている場合は、本管が直っても使えません。
台風や豪雨では、浄水場が浸水したり、水源が濁って処理が追いつかなくなったりします。停電によってポンプが止まることもあります。
冬には、配管の凍結や破裂が起きます。これは一軒ごとの問題ですが、当事者にとっては断水そのものです。
そして、老朽化した水道管の破裂は、何の前触れもなく起きます。近年、各地で発生しています。災害という言葉から連想しにくい原因ですが、実際にはこれがいちばん身近かもしれません。
停電と重なる場合
災害では、電気と水が同時に止まることがあります。ここで、条件が変わります。
集合住宅の多くは、いったん水を上の階へ送る仕組みを使っています。ここが電気で動いているので、停電すると水道が生きていても出なくなります。マンションに住んでいるなら、この点は必ず頭に入れておいてください。
戸建てでも、井戸を使っている家では同じことが起きます。
そして、電気が止まれば湯も作れません。冬なら、体を温める手段が減ります。水を温めるための、電気を使わない熱源があると心強い。
この組み合わせを想定して備えると、必要なものが見えてきます。水だけ、電気だけで考えるより、実際に近い準備になります。
家族で共有しておくこと
備えは、一人が知っているだけでは足りません。
どこに何を置いているか、家族全員が分かる状態にしてください。買った人だけが知っている備蓄は、その人が不在のときに役立ちません。
近くの給水所がどこになるかも、調べて共有しておいてください。多くの自治体が、指定の場所を公表しています。学校や公園が指定されていることが多い。
断水したときのルールも、決めておくとよいでしょう。この水は飲用、この水は生活用と分けておかないと、貴重な水を洗い物に使ってしまうことがあります。容器に大きく書いておくのが確実です。
そして、年に一度は点検の日を決めてください。期限を確認し、足りないものを補充する。防災の日や、年末の片づけのときに合わせると、忘れません。
よくある質問
賞味期限が切れた水は飲めますか
水の賞味期限は、腐るからではなく、容器を通して少しずつ蒸発し、表示された量を下回るまでの期間を示しています。保存の状態が良ければ、期限を過ぎても飲めることが多い。ただし、においや濁りがあれば飲まないでください。生活用水として使う手もあります。
ウォーターサーバーがあれば足りますか
備蓄として数えられます。ただし、停電すると使えない機種があるので、電気なしで水を出せるか確認してください。配送が止まれば補充もできないので、別の備蓄も併せて用意してください。
マンションの高層階です
停電すると、水を上げるポンプが止まるため、水道が生きていても断水します。そして、給水所からの運搬は階段になります。低層階よりも多めに備蓄しておく必要があります。
井戸があれば安心ですか
生活用水としては大きな強みです。ただし、電動のポンプなら停電で使えません。手押しの装置を併設しておくと確実です。飲用にする場合は、水質の検査を受けてください。
まとめ
飲む水は、一人一日三リットル。まず三日分から始めて、一週間分を目標にしてください。普段使う場所に置き、古いものから使って買い足す形にすれば、期限切れを防げます。そして、生活用水は別に考えてください。浴槽に水を張っておくだけで、余裕がまったく変わります。運ぶための容器と、携帯用のトイレも忘れないでください。備蓄の量より、この二つが足りなくて困る例が多いのです。