換気扇の油汚れは、家の掃除のなかで最も手強い相手かもしれません。時間が経った油は、樹脂のように固まり、洗剤を弾きます。ただし、性質は分かっています。油は酸性なので、アルカリ性の洗剤で分解できます。そして、温度を上げれば柔らかくなります。つまり、こするのではなく、つけ置きして化学の力で落とす。この記事では、その手順と、安全に進めるための注意を書きます。
この記事でわかること
- 油汚れが落ちる仕組み
- つけ置きの手順と温度
- 分解してよい範囲
- 汚れにくくする工夫
こすっても落ちない理由
調理で飛んだ油は、最初は液体です。それが空気に触れ、熱を受けるうちに、酸化して固まっていきます。時間が経つほど硬く、厚くなります。
そこに、ほこりや調理の煙に含まれる成分が混ざります。換気扇にこびりついている、あのべたつく茶色の層が、これです。
この状態になると、水も洗剤も表面で弾かれます。こすっても、表面を撫でているだけで、層は減りません。
だから、力ではなく、化学で溶かす必要があります。アルカリ性の洗剤が油を分解し、温度がその反応を早める。この二つを使ってください。
使う洗剤
どの洗剤を使うかで、落ちる速さが変わります。選択肢は主に四つです。
市販の換気扇用の洗剤が、最も効きます。強いアルカリ性で、固まった油を溶かす力があります。その代わり、手荒れの危険があり、素材を傷めることもあります。
重曹は、弱いアルカリ性です。安全ですが、固まった油には力が足りません。軽い汚れや、日常の手入れ向きです。
その中間が、炭酸塩と呼ばれる粉です。重曹より強く、市販の専用洗剤ほど危険ではない。多くの家庭では、これが扱いやすい選択になります。
食器用の中性洗剤も、油には効きます。ただし、固まった層には時間がかかります。
アルミに注意
洗剤を選ぶとき、必ず先に確認してほしいことがあります。これを飛ばすと、取り返しがつきません。
アルミニウムは、強いアルカリで溶けます。黒く変色し、表面が荒れて、元に戻りません。
換気扇の部品には、アルミが使われていることがあります。特に、フィルターの枠や、古い機種の羽根です。
見分けにくい場合は、取扱説明書を確認してください。使ってはいけない洗剤が書かれています。
分からなければ、目立たない部分に少量つけて、数分後に確認してください。変色するなら、その洗剤は使えません。
準備するもの
作業を始める前に、必要なものをそろえておきます。
ゴムの手袋は必須です。強いアルカリは、素手で触ると皮膚を傷めます。長めのものを選んでください。
目を守るものも用意してください。上を向いての作業になるので、洗剤が顔に落ちてきます。
つけ置きする容器が要ります。部品が入る大きさのものを、流し台に置くか、大きなごみ袋を段ボール箱に敷いて代用します。
そして、新聞紙と古い布。床とコンロを覆っておくと、後が楽です。歯ブラシや、細いブラシもあると届きます。
電源を切る
道具がそろったら、作業の最初に行うことです。ここを飛ばさないでください。
スイッチを切るだけでなく、コンセントを抜いてください。作業中に誤って動くと、手を巻き込みます。
コンセントが見当たらない機種では、分電盤で該当する回路を切ってください。台所の照明も消えるので、別の明かりを用意しておきます。
作業中は、コンロも使わないでください。洗剤が飛び散った状態や、部品を外した状態で火を使うのは危険です。
そして、換気扇が使えない状態になるので、窓を開けて換気してください。強い洗剤の蒸気がこもります。
外せる部品を外す
次に、取り外せる範囲を確認します。ここは機種によって違います。
フィルターは、手前の留め具を外せば取れます。金属の網や、板状の部品です。
その奥に、羽根が付いています。中央のねじを緩めれば外れる機種が多い。ただし、通常と逆向きに回すねじが使われていることがあります。説明書を確認してください。
油を受ける容器が付いている機種では、それも外します。たまった油は、紙に吸わせて捨ててください。
外した部品は、写真を撮っておいてください。組み直すときに、向きや順番で迷います。
外れない部品を、無理に外そうとしないでください。モーターや配線に触れる範囲は、掃除の対象外です。
つけ置きする
この工程が、作業の中心になります。ここで手を抜くと、あとがつらくなります。
容器に湯を張り、洗剤を溶かします。温度は、四十度から五十度が目安です。熱いほど油は溶けますが、樹脂の部品が変形する危険があります。六十度を超えないようにしてください。
部品を沈め、三十分から一時間置きます。厚い汚れなら、数時間かけてもかまいません。待っている間は、周囲の壁を拭くなど、別の作業を進められます。
途中で湯が冷めたら、効果が落ちます。熱い湯を足すか、時間を区切って入れ替えてください。
置いている間に、湯の表面に油が浮いてきます。これが、汚れが溶け出している証拠です。
こする工程
つけ置きが終わって、はじめてこする工程に入ります。
柔らかくなっているので、力は要りません。スポンジやブラシで、軽くなでるだけで落ちます。
羽根の間や、網の目の奥には、細いブラシを使ってください。使い古した歯ブラシでも十分に届きます。
金属のたわしは、避けてください。表面の加工がはがれ、かえって汚れが付きやすくなります。
落ちない部分があれば、もう一度つけ置きしてください。こすって落とそうとするより、確実で楽です。
本体側の掃除
部品を外して空になった状態で、本体の側も拭いておきます。
洗剤を布に含ませて拭くか、洗剤を吹き付けてから数分置いて拭き取ります。直接大量に吹くと、内部の電気の部品にかかります。布に含ませる方法のほうが安全です。
洗剤が残ったままだと、金属がさびたり変色したりします。水を含ませた布で、何度か拭き取ってください。
そして、最後に乾いた布で水気を取ってください。ここまでやると、次に汚れが付いても落としやすくなります。
周囲の壁や天井にも、油が付いています。ここも同じ洗剤で拭けますが、壁紙を傷めないよう、薄めて使ってください。
すすぎと乾燥
汚れが落ちたら、仕上げの工程です。
洗剤が残っていると、金属が変色したり、さびたりします。よくすすいでください。
そして、完全に乾かしてから戻してください。水が残ったまま組むと、さびの原因になります。
羽根は、水が溜まりやすい形です。振って水を切り、しばらく立てかけておいてください。
組み直したら、電源を入れて動作を確認します。異音や振動があれば、羽根の取り付けが正しくありません。いったん止めて、付け直してください。
汚れた水の捨て方
ここは、意外と見落とされる点です。
つけ置きに使った水には、大量の油が浮いています。そのまま流すと、排水管の内側に付着し、詰まりの原因になります。
浮いた油は、新聞紙や古い布で吸い取ってから捨ててください。この一手間で、詰まりを防げます。
流すときは、熱い湯を一緒に流してください。管の中で固まりにくくなります。
油を吸わせた紙は、自治体の分別に従って捨ててください。多くの地域では、燃えるごみの扱いです。
触ってはいけない部分
ここからは、自分でやる範囲の線引きです。
モーターには、水も洗剤もかけないでください。内部に入ると故障します。
本体を壁から外すことも、やめてください。配線がつながっており、外れると危険です。
屋外に出ている排気の管も、手が届きません。ここまで汚れている場合は、業者に頼んでください。
専門の業者に頼むと、一台あたり一万円台から二万円前後が目安です。数年放置して手に負えない状態なら、一度頼んで、その後を自分で維持するという方法が合理的です。
汚れにくくする
最後に、次の掃除を楽にする工夫です。
フィルターに貼る、使い捨ての不織布があります。汚れたら替えるだけなので、本体の掃除の回数が減ります。
ただし、目が詰まると換気の能力が落ちます。汚れたら替えてください。放置すると、かえって本体側に油が回ります。
調理のとき、換気扇を早めに回し、終わった後もしばらく回し続けてください。空気中に漂う油を、外へ出せます。
そして、頻度です。年に一度、大掃除でまとめてやるより、三か月に一度フィルターだけ洗うほうが、はるかに楽です。固まる前なら、湯と中性洗剤で落ちます。
換気扇の形式で作業が変わる
台所の換気扇には、いくつかの形式があります。どれかによって、外せる部品も手間も違います。
羽根がそのまま見えている形式は、古い住宅に多いものです。壁に穴を開けて、扇風機のような羽根が付いています。構造が単純なので、外して洗うのは比較的簡単です。ただし、羽根に直接油が付くため、汚れ方は激しくなります。
覆いが付いた形式は、今の住宅の主流です。フィルターがあり、その奥に筒状の羽根が入っています。フィルターが油を受け止めるぶん、奥は汚れにくい構造です。
最近は、フィルターを使わない形式もあります。油を遠心力で飛ばして、専用の容器にためる仕組みです。この場合、容器を定期的に捨てるだけで済みます。
自分の家がどの形式か、まず確認してください。説明書があれば、分解の手順が図で載っています。なければ、型番を調べてメーカーのサイトを見てください。
作業の時間と段取り
始める前に、どれくらいかかるかを見ておいてください。
部品を外して、つけ置きして、こすって、乾かして、組み直す。ここまでで、二時間から三時間を見ておくと安心です。つけ置きの時間が長いので、その間は別のことができます。
だから、時間に余裕のある日に始めてください。食事の支度の直前に始めると、乾かないうちに組むことになります。
季節も関係します。気温の高い時期のほうが、油が柔らかく、湯も冷めにくい。逆に、真冬は油が硬く、つけ置きの湯もすぐ冷めます。年末の大掃除でこの作業を入れるのは、じつは条件が悪い時期です。
私がすすめるのは、秋か、梅雨の前です。窓を開けやすく、油も柔らかい。人の少ない時期なら、業者に頼む場合も予約が取りやすくなります。
火災の予防という意味
この掃除には、見た目以外の理由があります。
換気扇にたまった油は、燃えます。コンロの火が大きくなったとき、あるいは調理中の油に引火したとき、その火が換気扇に達すれば、たまった油に燃え移ります。
そして、換気扇の内部を伝って、天井裏や壁の中へ火が広がることがあります。消火が難しく、被害が大きくなる型の火災です。
フィルターが目詰まりしていると、換気の能力も落ちます。燃焼で出た気体が室内に残ることになり、これも危険です。
つまり、この掃除は衛生の問題であると同時に、安全のための作業でもあります。面倒でも先送りしない理由が、ここにあります。
よくある質問
何年も掃除していません
一度で全部落とそうとせず、つけ置きを何度か繰り返してください。それでも落ちないなら、業者に依頼する価値があります。手が届かない内部にも、相当たまっているはずです。
重曹を使いましたが落ちません
アルカリの強さが足りていません。炭酸塩の粉か、市販の専用洗剤に切り替えてください。ただし、素材を確認してからにしてください。アルミには使えません。
羽根のねじが回りません
通常と逆向きに回すねじの可能性があります。回転で緩まないよう、そうなっている機種があります。説明書を確認してください。無理に回すと、ねじの頭を潰します。
賃貸ですが自分でやってよいですか
フィルターや羽根の掃除は、入居者が行う範囲です。むしろ、退去時に汚れが残っていると費用を求められます。ただし、本体を分解する作業は避け、故障したら管理会社に連絡してください。
まとめ
換気扇の油汚れは、こすって落とすものではありません。アルカリ性の洗剤を溶かした四十度から五十度の湯に、三十分から一時間つける。これが作業の中心です。柔らかくなってから、軽くこすれば落ちます。ただし、アルミの部品に強いアルカリを使うと、黒く変色して戻りません。素材の確認を先にしてください。そして、電源は必ず抜くこと。三か月に一度フィルターを洗う習慣にすれば、この作業自体が要らなくなります。
本体の交換は換気扇の交換、排水の詰まりは排水口が詰まったとき、廃油の始末は使用済みの油の捨て方をご覧ください。