防災で備える工具|地震のあとに役立つ道具と、要らない道具

非常持ち出し袋の中身は、食料や水、衛生用品の話が中心になりがちです。けれど、大きな地震のあとに実際に困るのは、開かなくなった扉、割れたガラス、倒れた家具、止まった電気とガスです。そこで役に立つのが、工具です。

目次

この記事で伝えたいこと

  • 最優先は靴、厚手の手袋、両手が空くライト。けがをしないことが、すべての前提です。
  • 工具は家の中の複数の場所に分けて置きます。物置が倒れたら、取り出せません。
  • ガソリンの買いだめはしないでください。家庭での保管は、災害時にかえって危険を増やします。
  • 地震のあと家を離れるときは、ブレーカーを落としてから。通電火災を防ぎます。

優先度をつけて考える

「防災用の工具」と聞くと、何でもそろえたくなります。ですが、置き場所にも予算にも限りがあります。使う場面の多さと、なかったときの困り方で優先度をつけてください。

優先度道具役立つ場面
最優先底の厚い靴、スリッパ割れたガラスや食器の上を歩く
最優先厚手の手袋(革や、切れにくい素材のもの)ガラス片、がれき、金属の端をつかむ
最優先ヘッドライト停電の夜。両手が空きます
高いカセットこんろとボンベガスや電気が止まったときの煮炊き
高いバールゆがんで開かない扉、家具のすき間を広げる
高いブルーシート、ロープ、布テープ割れた窓や、雨漏りの応急処置
高いラジオと予備の電池情報を得る
あると助かるのこぎり、ペンチ、ドライバー壊れた家具の片付け、簡単な修理
あると助かるほうき、ちりとり、厚手のごみ袋ガラス片の片付け
状況によるジャッキ重い物を少し持ち上げる

上の3つが、工具より先に来ている点に注目してください。

揺れが収まったあと、最初に歩く床には、割れたものが散らばっています。暗い中でそれを素足で踏めば、その時点で動けなくなります。寝室に、靴と手袋とライトを置いておく。これが、どの工具よりも先にやるべき備えです。

明かり:ヘッドライトを選ぶ理由

停電したとき、懐中電灯よりヘッドライトをすすめます。

片付け、けが人の手当て、扉をこじ開ける作業。どれも両手を使います。懐中電灯を口にくわえて作業するわけにはいきません。

電池は、家の中の機器とサイズをそろえておくと、融通が利きます。ライト、ラジオ、ほかの機器で電池を使い回せるからです。

ろうそくは、なるべく使わないでください。余震で倒れれば火災になります。暗い中で、周りに燃えやすいものが散らばっている状況では、なおさらです。部屋全体を照らしたいときは、電池式のランタンを部屋の中央の高い位置に置くと、ひとつで広い範囲を照らせます。

バールとジャッキ:閉じ込められたとき

大きな揺れで建物がゆがむと、扉が開かなくなることがあります。そのとき、すき間に差し込んで広げる道具がバールです。

家具が倒れて、人や物が下敷きになった場合にも、てこの原理で持ち上げる力になります。

人が下敷きになっている場合は、まず119番に通報してください。電話がつながらない状況でも、周りの人に助けを求めることが先です。重い物を持ち上げるときは、少し持ち上げたら、すぐに木材などを差し込んで支えてください。工具が外れたり、手が滑ったりすれば、持ち上げた物が再び落ちます。持ち上げた状態を、工具だけで保たないことが大切です。車に積んであるジャッキは、本来は車体を持ち上げるための道具で、形の違う物を支えるには不安定です。使うなら、支えを入れる前提で、慎重に扱ってください。

バールは、長さのあるものほど大きな力を出せます。ただし、長いものは重く、しまう場所も取ります。家の中で、すぐ手の届く場所に置ける長さを選んでください。玄関の靴箱の中やベッドの下など、揺れで物が倒れても取り出しやすい場所が向いています。

カセットこんろ:備え方にこつがあります

電気もガスも止まったとき、温かい食事がとれるかどうかは、気持ちの面でも大きな差になります。

ボンベを何本備えるかは、家族の人数と、何を作るかで変わります。お湯を沸かすだけか、煮炊きをするかで、使う量がまったく違うためです。

目安をつかむために、普段の生活で一度、ボンベ1本でどれだけ使えるかを試してみてください。鍋料理の日に1本使い切ってみる。それだけで、自分の家に何本必要かの見当がつきます。

備えるときに気をつけたい点があります。

  • 高温になる場所に置かない。車の中や、日の当たる物置は避けます
  • 使用期限の目安を確かめる。古いものから普段の料理で使い、新しいものを買い足します
  • 冬の停電を想定しておく。寒いと、ボンベの火は弱くなります
  • こんろ本体の点検もする。何年もしまったままだと、点火しないことがあります

保管の考え方はカセットボンベの保管方法に、寒い時期に火が弱くなる理由は寒いとカセットボンベのガスが出ない理由にまとめました。

そして、屋内で使うときは換気を忘れないでください。窓を閉めきった部屋で長く火を使えば、一酸化炭素の危険があります。避難生活では、ふだんより窓を閉めがちになります。

水を運ぶ容器は、灯油用と分けてください

断水すると、給水所から水を運ぶことになります。そのための容器も、備えておきたい道具の一つです。

ここで、ひとつはっきりお伝えしておきたいことがあります。灯油に使っているポリタンクを、飲み水の運搬に使わないでください。一度灯油を入れた容器は、洗っても臭いや成分が残ります。

逆も同じです。水用の容器に、灯油を入れないでください。灯油を入れる容器には、消防法にもとづく基準があります。水用の容器は、その基準を満たすように作られていません。

  • 飲み水用として売られている容器を、別に用意する
  • 折りたためる給水袋なら、しまう場所を取らない
  • 容器に、中身を大きく書いておく
  • 満タンの容器は重い。持ち運べる量を、家族で確かめておく

非常時は、家の中にふだんと違う容器が増えます。暗く、慌ただしい中で取り違えないよう、見た目で区別がつく状態にしておいてください。燃料ごとに使える容器は、燃料と容器の適合早見表にまとめています。

備えないほうがいいもの

防災のつもりで備えたものが、災害時に危険を増やすことがあります。

ガソリンの買いだめ

災害のあと、ガソリンスタンドに行列ができる光景は、繰り返し報じられてきました。だから、携行缶にガソリンをためておきたくなる気持ちは分かります。

ですが、家庭でのガソリンの保管は、おすすめしません。

  • ガソリンは、氷点下でも火がつく蒸気を出します
  • 地震で容器が倒れれば、漏れた蒸気に何かの火花が引火します
  • 長く置けば、劣化して使えなくなります
  • 一定の量を超える保管は、市町村の火災予防条例による届け出の対象になります

車の燃料をこまめに満たしておくほうが、はるかに安全な備え方です。車のタンクは、ガソリンを安全に保つために作られています。携行缶の扱いはガソリン携行缶の選び方に、容器の決まりは燃料と容器の適合早見表にまとめました。

屋内で使えない燃焼機器

停電に備えて発電機を用意する家庭もあります。

ここで事故が起きやすいのは、屋内や、玄関先、車庫の中で動かしてしまうことです。発電機はエンジンを回しているので、排気には一酸化炭素が含まれます。雨や寒さを避けたくて屋根の下に置いた結果、排気が家の中に流れ込む。そうした事故が、災害のたびに起きています。

発電機を備えるなら、建物から離れた屋外で使うことを前提にしてください。選び方は発電機の選び方に、一酸化炭素の怖さは暖房器具の換気と一酸化炭素で詳しく書きました。

使い方を知らない工具

意外に見落とされるのが、これです。

箱に入ったまま、一度も使ったことのない工具は、非常時にはほとんど役に立ちません。暗く、焦っている中で、初めて説明書を読むことになるからです。

カセットこんろなら、普段の料理で使う。ヘッドライトなら、夜の庭仕事で使う。ふだんの生活の中で、一度は手に取っておくことをすすめます。

揺れが収まったら、工具より先にやること

  1. 靴を履き、手袋をする。
  2. 火の元を確かめる。使っていた暖房器具やこんろを止めます
  3. ガスの臭いがしないか確かめる。臭いがしたら、火や電気のスイッチに触れず、窓を開けて外に出ます
  4. 家を離れるときは、ブレーカーを落とす。
  5. 割れた窓や破損した場所を、応急処置する。

4番のブレーカーには、はっきりした理由があります。

停電していた電気が戻ったとき、倒れた暖房器具や、傷んだ配線から火が出ることがあります。通電火災と呼ばれるものです。家に誰もいない間に起きれば、気づくのが遅れます。

揺れを感知すると自動で電気を止める感震ブレーカーという装置もあります。分電盤に組み込む種類は、取り付けに電気工事士の資格が必要です。簡易的に取り付けられる種類もあるので、住まいに合わせて検討してください。分電盤の見方は分電盤とブレーカーの基礎にまとめました。

3番のガスについて。都市ガスやLPガスのメーターの多くには、大きな揺れを感知すると自動でガスを止める仕組みがあります。止まったガスを戻す手順は、ガス会社が案内しています。ガスの臭いがするときは、戻そうとせず、ガス会社に連絡してください。

置き場所を分ける

工具をすべて物置にしまっている家庭は多いと思います。

ですが、大きな地震では物置そのものが倒れたり、扉がゆがんで開かなくなったりします。いちばん必要なときに、取り出せません。

場所置くもの
寝室靴、手袋、ヘッドライト
玄関の近くバール、ラジオ、持ち出し袋
台所の近くカセットこんろとボンベ(高温になる場所は避ける)
物置ブルーシート、のこぎり、そのほかの工具
ライト、手袋、ブースターケーブル(ボンベは置かない)

寝室に置くものは、ベッドや布団から手の届く位置にしてください。袋に入れて、ベッドの脚にくくりつけておく方法もあります。揺れで飛ばされないためです。

年に一度、点検する日を決める

備えは、置いたときがいちばん新しく、そこから少しずつ使えなくなっていきます。

  • ライトとラジオが点くか。電池は、入れたままにすると液漏れします
  • カセットボンベの期限の目安。古いものは普段の料理で使います
  • こんろが点火するか。
  • ブルーシートやロープが劣化していないか。
  • 家族の人数や暮らしが変わっていないか。

点検の日は、自分で覚えやすい日にしてください。防災の日のような決まった日でも、誕生日でも構いません。「思い出したらやる」では、まず続きません。

備えるときの疑問

Q. 防災用の工具セットを買えば足りますか

A. 入り口としては悪くありませんが、それだけで安心しないでください。

セットは、一つの袋や箱にまとまっているぶん、置き場所が一か所に集まりがちです。前の節で書いたように、分けて置くことが大切です。

そして、中身に自分が使ったことのない道具が入っていないか確かめてください。使い方の分からない道具は、非常時の荷物になるだけです。

Q. 灯油は備えておいてもいいですか

A. 冬に石油ストーブを使う家庭なら、シーズン中に余裕を持って置いておくのは現実的です。

ただし、シーズンをまたいで持ち越さないこと、決められた容器で、火気と日光を避けて保管することが条件です。ガソリンとは、燃えやすさの性質がまったく違います。保管の仕方は灯油の運搬と保管にまとめました。

Q. マンションでも、同じ備えが必要ですか

A. 基本は同じです。加えて、エレベーターが止まることを考えてください。

高い階では、水や燃料を運び上げるのが大変になります。重いものほど、あらかじめ家の中に置いておくほうが助かります。

一方で、ベランダでの火気や発電機の使用は、管理規約で禁止されていることがあります。事前に確認しておいてください。

この記事のまとめ

  • 最優先は、靴・手袋・ヘッドライト。寝室の手の届く場所に。
  • 工具は家の中に分けて置く。物置だけに頼らない。
  • ガソリンは買いだめしない。車の燃料をこまめに満たすほうが安全。
  • 発電機やこんろは換気と置き場所に注意。
  • 家を離れるときはブレーカーを落とす
  • 年に一度、点検の日を決める。

防災の備えは、使わずに済めばそれでいいものです。何年も箱の中で眠っている工具は、無駄に見えるかもしれません。

ただ、非常時に役に立つかどうかは、その道具がそこにあるかどうかより、取り出せる場所にあって、使い方を知っているかで決まります。買って終わりにせず、ときどき手に取ってみてください。

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この記事を書いた人

工具逆引き堂の運営者。乙種第4類危険物取扱者(令和3年8月取得)、第二種高圧ガス販売主任者(令和8年5月取得)。ガソリン・灯油などの燃料やカセットボンベの扱いを中心に、作業ごとに必要な工具と、法令・安全上の注意点を整理しています。資格の詳細と記事の守備範囲は運営者情報をご覧ください。

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