非常持ち出し袋は、用意した時点で満足してしまいがちな備えです。しかし、中身の半分は数年で使えなくなります。電池は液漏れし、食品は期限を過ぎ、乾電池で動く機器は動かなくなります。そして、いざというときに重くて持てない、という問題も起こります。この記事では、何を入れるかだけでなく、どれくらいの重さに収めるか、どこに置くか、どう入れ替えるかまでを書きます。買い足すより先に、いま持っている袋を一度開けてみてください。
この記事でわかること
- 持ち出す袋と、家に置く備蓄の違い
- 重さの上限と、削るものの判断
- 入れ替えが必要なものと時期
- 置き場所の決め方
持ち出す袋と家の備蓄は別
まず、この二つを分けて考えてください。混同すると、袋が重くなりすぎます。
持ち出す袋は、家を離れて避難するときに背負うものです。目的は、避難の途中と、避難先での最初の一日を乗り切ることです。
家に置く備蓄は、家にとどまれる場合に使うものです。水、食料、燃料、日用品。こちらは重さを気にせず、量を確保できます。
実際には、家にとどまる場面のほうが多くなります。だから、備蓄のほうが出番は多いと考えてください。持ち出す袋は、家が使えなくなった場合の保険です。
重さの上限を先に決める
中身を決める前に、重さを決めてください。これが最も重要です。
目安は、男性で十五キロ、女性で十キロとされています。ただし、これは健康な成人が平地を歩く場合の数字です。
実際の避難では、暗い中を、足元の悪い道で、子どもの手を引いて歩くことになります。この条件なら、その半分でも重く感じます。
詰め終わったら、実際に背負って家の周りを一周してみてください。歩けない重さなら、減らすしかありません。持てない袋は、置いていくことになります。
最優先で入れるもの
削れないものから挙げます。
- 明かり。電池式の懐中電灯か、頭に付ける形式
- 電池の予備
- 携帯電話を充電する手段
- 水。一人あたり最低でも一リットル
- 常用している薬とお薬手帳の写し
- 身分を証明するものの写し
- 現金。硬貨を含める
- ホイッスル
- 軍手か作業用の手袋
- 厚手の底の靴。枕元に置く
このうち、ホイッスルは軽くて効きます。がれきの下敷きになったとき、声を出し続けるのは体力を消耗します。笛なら、わずかな力で遠くまで届きます。
現金に硬貨を含めるのは、停電で電子決済も自動販売機も使えなくなるためです。公衆電話にも硬貨が要ります。
次に入れるもの
余裕があれば加えるものです。
- 食料。調理が要らず、すぐ食べられるもの
- 体を拭くシート
- タオル
- 防寒具。薄くたためるもの
- 雨具。傘ではなく、両手が空く形式
- 簡易のトイレ
- 救急の用品
- 電池式のラジオ
- ビニール袋。数枚
- マスク
ビニール袋は、用途が多い割に軽いものです。ごみ袋、濡れたものを入れる袋、水を運ぶ容器、雨具の代わり。何枚か入れておいてください。
簡易のトイレは、見落とされやすい備えです。避難先でも、断水した自宅でも必要になります。使い方を一度読んでおいてください。
入れなくてよいもの
市販の防災セットには、重さの割に使わないものが入っていることがあります。
調理を前提とした食品は、持ち出す袋には向きません。湯を沸かす道具と燃料まで必要になり、重量が増えます。これは家の備蓄に回してください。
大きな工具も同じです。バールやのこぎりは、家の中に置いておくほうが実用的です。避難の途中で使う場面は、多くありません。
缶詰は重いわりに量が食べられません。缶切りが要る製品なら、なおさらです。
削る判断の基準は単純で、その重さを背負って歩けるかどうかです。
水をどれだけ入れるか
水は重さの大部分を占めます。ここの判断が、袋の重さを決めます。
一リットルで一キロです。三日分の三リットルを入れると、それだけで三キロになります。
持ち出す袋には、一リットル前後で十分です。避難先には給水があります。歩いている間に飲む分と考えてください。
残りは、家の備蓄として置いておきます。家にとどまれるなら、そちらを使います。
小さな容器に分けておくと、少しずつ飲めて、分け合うこともできます。
電池の扱い
最も入れ替えが必要なのが電池です。
機器に入れたまま長期間置くと、液漏れして機器を壊します。懐中電灯が使えなくなっている家庭は、かなり多いはずです。
電池は機器から抜いて、別に袋へ入れておいてください。使うときに入れれば済みます。
未使用の電池にも寿命があります。パッケージに使用の推奨期限が印字されているので、確認してください。
機器の電池の種類をそろえておくと、予備を共用できます。買うときに意識してください。
携帯電話の充電
情報を得る手段として、携帯電話の電池は重要です。
蓄電池を入れておく場合、問題があります。使わずに置くと自然に放電し、いざというときに空になっています。
対策は二つです。普段から使うものを袋に入れておき、出かけるときに持ち出す。あるいは、乾電池で充電する形式の製品を入れておく。
後者なら、電池さえあれば長期間保管できます。充電できる量は少ないのですが、連絡を取る程度なら足ります。
ケーブルも忘れずに入れてください。本体だけあっても使えません。
食品の入れ替え
入れた食品は、期限を過ぎます。仕組みで管理してください。
袋の外側に、最も早い期限を書いた紙を貼っておく方法があります。開けなくても、いつ確認すべきかがわかります。
年に一度、日を決めて中身を確認するのが確実です。防災の日や、季節の変わり目に合わせると忘れません。
期限が近いものは、その場で食べてください。味を知っておくことにも意味があります。口に合わないものを、非常時に初めて食べるのは避けたいところです。
どこに置くか
置き場所で、使えるかどうかが決まります。
玄関か、玄関に近い場所が基本です。逃げるときに通る場所に置いてください。
押し入れの奥、物置の中、二階の納戸。こうした場所は避けてください。取りに行く時間が、そのまま危険になります。
家具が倒れてふさがれない位置かどうかも見てください。背の高い家具の隣は避けます。
そして、家族全員が場所を知っていることです。誰が最初に動いても持ち出せる状態にしてください。
分散して置くという考え方
一か所にまとめると、そこが使えないときに全部を失います。
寝室にも、小さな袋を置いておく方法があります。明かりと、靴と、ホイッスル。この三つだけでも、夜中の地震で大きく違います。
車を持っているなら、車内にも少し置けます。ただし、夏の車内は高温になるので、食品や電池の保管には向きません。毛布や軍手といったものに限ります。
職場や学校にも、簡単なものを置いておくと安心です。帰宅できない場面を想定してください。
家族の事情に合わせる
一般的な中身のリストは、あくまで出発点です。
乳児がいるなら、ミルクとおむつが最優先です。液体のミルクなら、湯が要りません。おむつは想定より多めに入れてください。
常用の薬がある方は、数日分を袋に入れてください。お薬手帳の写しか、薬の名前を書いた紙もあわせて入れます。避難先で処方を受けるときに必要になります。
眼鏡を使っている方は、古い眼鏡を予備として入れておいてください。度が合わなくても、ないよりはるかに良い状態です。
ペットがいるなら、フードとリードと、写真です。はぐれたときに探す手がかりになります。
袋そのものを選ぶ
中身に気を取られて、袋を軽視しがちです。
両手が空く、背負う形式を選んでください。手提げでは、階段を降りるときも、子どもの手を引くときも困ります。
肩の紐が細いものは、重さが食い込んで痛くなります。幅のある紐で、腰にも留められる製品が楽です。
防水の素材か、中身をビニール袋に入れてください。雨の中を歩く可能性があります。
登山用のかばんを持っているなら、それが最適です。重さを支える構造が優れています。
市販のセットを買う場合
一式そろった製品は、始めるには便利です。
ただし、そのまま置いておくのではなく、一度中身を全部出してください。何が入っているかを知らないままでは、使えません。
使わないと判断したものは、抜いて構いません。そのぶん軽くなります。
逆に、自分に必要なものを足してください。薬、眼鏡、子どもの物。既製品には入っていないものが、実は一番重要です。
年に一度の見直し
備えは、置いた時点から古くなっていきます。
- 食品と水の期限を確認する
- 電池を新しいものに替える
- 機器が動くか確かめる
- 衣類のサイズが合っているか見る
- 薬の期限を確認する
- 背負って歩いてみる
子どもがいる家庭では、衣類とおむつのサイズが特に変わります。一年で合わなくなります。
この見直しを、家族で一緒にやってください。中身を知っている人が増えるほど、いざというときに動けます。
避難する判断そのもの
袋を持ち出すかどうかの判断も、事前に考えておいてください。
地震の場合、揺れが収まってから、家の状態を見て判断します。倒壊の危険があれば出ます。火が出ていれば、何も持たずに出てください。
水害の場合は、早い段階で動きます。水が出てからでは、歩けません。自治体の情報を見て、余裕のあるうちに移動してください。
自宅が安全なら、とどまるという選択もあります。この場合は、持ち出す袋ではなく備蓄を使います。
季節で入れ替えるもの
災害が起きる季節は選べません。年に一度の見直しのとき、季節に合わせて中身を変えてください。
夏なら、水を多めに、塩分を補えるものを加えます。暑さを避ける道具も要ります。冷却のシートや、手で扇ぐものが役立ちます。虫よけも入れてください。
冬なら、防寒具が最優先になります。薄くたためる保温のシート、使い捨ての温めるもの、手袋と帽子。避難先は暖房が足りないことがあります。
雨の多い時期は、雨具と、濡れたものを入れる袋を増やします。濡れた衣類のままでは、夏でも体が冷えます。
情報をどう得るか
災害時に困るのが、何が起きているかわからない状態です。
携帯電話がつながらない場面があります。回線が混み合う、基地局が停電する、といった理由です。この状態に備えて、電池式のラジオを一つ入れておいてください。
ラジオは、電池の持ちがよく、広い範囲に情報が届きます。地域の放送では、給水や支援の情報も流れます。
手回しで発電する形式の製品もあります。電池が不要ですが、回し続ける手間があります。明かりと充電の機能を兼ねる製品なら、荷物を減らせます。
紙の地図と、家族の連絡先を書いた紙も入れてください。携帯電話が使えないとき、記憶だけでは連絡が取れません。
避難先で困ること
実際に避難した方の話から、備えておくと差が出るものを挙げます。
耳栓とアイマスクです。大勢が集まる場所では、音と明かりで眠れません。眠れないことが、体調を崩す原因になります。軽くて場所を取りません。
スリッパもあると助かります。床に座って過ごす場所では、靴の脱ぎ履きが頻繁になります。
体を拭くシートは、風呂に入れない日が続く場面で効きます。歯を磨く道具も、水が少なくて済む形式のものがあります。
そして、少しの娯楽です。子どもがいるなら、小さな本や折り紙が落ち着く助けになります。
よくある質問
何日分を用意すればよいですか
持ち出す袋は一日分で十分です。避難先で支援を受けられるためです。家に置く備蓄は、三日分、可能なら一週間分が目安とされています。この二つを混同しないでください。
費用はどれくらいかかりますか
市販のセットなら五千円から一万円台です。ただし、家にあるもので相当な部分を賄えます。懐中電灯、軍手、タオル、ビニール袋。まず家の中を見回して、足りないものだけ買ってください。
重くて持てません
削ってください。水を減らし、缶詰を抜き、工具を家に置く。この三つで、かなり軽くなります。持てない袋に意味はありません。家族で分担して持つという方法もあります。
マンションでも必要ですか
必要です。建物が無事でも、電気と水が止まります。高層階なら、階段で降りることになるので、重さの管理はより重要になります。エレベーターに閉じ込められる可能性も考えておいてください。
まとめ
非常持ち出し袋は、持ち出せる重さに収めることが最も重要です。男性で十五キロ、女性で十キロが目安ですが、実際の避難条件ならその半分でも重く感じます。詰めたら背負って歩いてみてください。水は一リットル、残りは家の備蓄に回します。電池は機器から抜いて別に入れ、年に一度は中身を確認してください。そして、玄関の近くに置き、家族全員が場所を知っている状態にしてください。
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