灯油をこぼしたとき、最初にやるべきことは拭き取りではありません。火の元を止めることです。ストーブ、給湯器、換気扇、電気のスイッチ。この順で手を打ってから、拭き取りに入ります。灯油は常温では簡単に燃えませんが、布や紙に染みて表面積が広がると、燃えやすい状態に変わります。そして拭き取りに水を使うと、灯油は水に浮いて広がるだけです。この記事では、床、車内、衣類のそれぞれについて、正しい順番と使う道具をまとめます。
この記事でわかること
- こぼした直後にやる三つの手順
- 床材ごとの拭き取り方
- においが残ったときの消し方
- 車内と衣類の場合の違い
最初の三分でやること
順番があります。慌てて雑巾を取りに行く前に、この三つを済ませてください。時間にすれば一分もかかりません。
一つめは、火を消すことです。石油ストーブ、ガスこんろ、給湯器の運転を止めます。仏壇のろうそくや線香も含みます。こぼれた灯油そのものより、蒸気に引火する危険のほうが先に来ます。
二つめは、換気です。窓を二方向開けて、空気の通り道を作ります。ただし換気扇のスイッチには触れないでください。スイッチを入れる瞬間の火花が引火の原因になります。すでに回っているなら、そのままで構いません。
三つめは、広がりを止めることです。新聞紙や古布を、こぼれた場所の外周に置いて堰にします。特に床が傾いている家では、思っているより速く流れます。壁際まで届くと、幅木の隙間から下へ入り込みます。
この三つを終えてから、ようやく拭き取りに入ります。焦って布を押し付けると、かえって奥へ押し込むことになります。
拭き取りの基本は吸わせること
灯油は、こすらずに吸わせます。布を押し当てて、そのまま持ち上げる。この繰り返しです。こすると繊維の奥へ押し込むことになり、かえって落ちにくくなります。
使うものは、新聞紙、古いタオル、キッチンペーパーなど、吸い込む力があるものです。量が多いときは、猫の砂や、こぼれた油を固める粉状の吸着材が使えます。園芸用の乾いた土でも代用できます。粉をかけて数分置き、油を吸ったところを集めて捨てます。
外側から中心に向かって吸い取ってください。中心から外へ動かすと、汚れた範囲が広がります。一度使った布は絞って再利用せず、次の乾いた面を使います。
そして、水で流さないでください。灯油は水に溶けず、水の上に広がります。流した先の排水口から下水へ入ると、法令に触れる問題にもなります。掃除機で吸うのも避けてください。モーターの火花が引火します。
床材によって次の手が変わる
吸い取った後の処理は、床の種類で変わります。表面で止まる床材と、内部まで入る床材では、かかる手間がまるで違います。
フローリングなら、吸い取った後に中性洗剤を溶かしたぬるま湯で拭き、乾いた布で水気を取ります。表面の塗装が守ってくれるので、素早く対応すれば跡は残りません。長く放置すると、塗装が白く変色することがあります。
畳は厄介です。い草の内部まで染み込むので、表面を拭くだけでは足りません。吸い取った後、小麦粉や重曹を厚めに振りかけて数時間置き、掃き取ります。これを何度か繰り返します。それでもにおいが残る場合は、畳の表替えを考えることになります。
カーペットや絨毯も、繊維の奥に入ります。吸着材で吸い取った後、中性洗剤を薄めた液で叩くように洗い、乾いた布で水分を取ります。扇風機を当てて、完全に乾かしてください。生乾きだと、においが残ります。
コンクリートやモルタルの土間は、吸い込みやすい代わりに、時間とともににおいが抜けます。吸着材で吸い取り、洗剤で洗った後は、風通しをよくして待つのが現実的です。
においを消す
吸い取りと洗浄が終わっても、においはしばらく残ります。灯油のにおいは揮発とともに薄れるので、基本は換気を続けることです。
- 窓を二方向開け、風の通り道を作る。数日続ける
- 重曹を広口の容器に入れて、こぼした場所の近くに置く
- コーヒーの出がらしや茶がらを乾かして置く方法も効く
- 市販の消臭剤は、香りでごまかすものより、においを吸着するものを選ぶ
- 床下まで染みた場合は、床下換気口を開けて風を通す
においが強く残る場合は、まだ灯油が残っているということです。消臭を重ねるより、もう一度吸い取る作業に戻ってください。特に、家具の下、幅木の際、床板の継ぎ目は見落としやすい場所です。
においが数週間消えない、床下から上がってくる、こうした場合は自分の手に負えません。床材の張り替えが必要な可能性があるので、工務店やリフォーム業者に相談してください。
車の中にこぼした場合
ポリタンクを車で運んでいる途中に漏れる、これはよくある事故です。車内は密閉されているため、家の中より対応を急ぐ必要があります。
まず、エンジンを止めて全部のドアを開けてください。エンジンをかけたまま走り続けると、蒸気が車内にこもります。車から降り、少し離れて数分待ってから作業に入ります。
荷物をすべて降ろし、マットを外します。マットは屋外に広げて、乾かします。染み込んだカーペットは、吸着材と洗剤で処理しますが、車のカーペットは下に吸音材が入っているため、表面だけでは終わりません。ここに染みると、においが長く残ります。
自分で対応しきれないと感じたら、早い段階で内装のクリーニングを扱う業者に相談してください。時間が経つほど落ちにくくなります。夏場なら、車内が高温になって蒸気が充満するので、なおさら放置はできません。
そもそもの対策として、ポリタンクは立てて固定し、蓋を確実に締めることです。段ボールの箱に入れて運べば、少量なら箱が受け止めます。トランクに毛布を敷いておくのも有効です。
衣類と手に付いた場合
灯油が付いた衣類は、そのまま洗濯機に入れないでください。他の衣類ににおいが移りますし、乾燥機にかけると発火の危険があります。
手順としては、まず屋外で干して、灯油を揮発させます。半日から一日置くだけで、かなり抜けます。その後、台所用の中性洗剤を直接つけてもみ洗いし、ぬるま湯ですすいでから、単独で洗濯します。柔軟剤を使うと、においが混ざって余計に気になることがあります。
大量に染みた衣類は、無理をせず処分することも考えてください。作業着ならともかく、普段着に深く染み込んだ場合、においが完全には抜けません。
手に付いた場合は、石けんで洗う前に、食用油を少量なじませてから洗うとよく落ちます。油は油に溶けるためです。その後、石けんでしっかり洗い流してください。荒れやすい方は、作業のときに手袋を使うほうが確実です。
拭き取った布の捨て方
ここを間違えると、片付けが終わった後になって火事になります。実際に起きている事故なので、最後まで気を抜かないでください。
灯油を吸った布や新聞紙は、丸めてごみ袋に入れないでください。内部で熱がこもり、自然に発火することがあります。まず屋外の風通しのよい場所に広げて、完全に乾かしてください。
乾いたことを確認してから、自治体の区分に従って出します。多くの地域では燃えるごみですが、量が多い場合は事前に確認してください。水を含ませてから密閉する方法を案内する自治体もあります。
吸着材や猫の砂を使った場合も同じです。灯油を吸った状態で袋に入れず、乾かしてから出してください。
こぼさないための道具
ここまで読んでいただければわかるとおり、後始末には手間がかかります。こぼさない工夫をするほうが、はるかに楽です。
給油のときに一番多いのが、あふれさせる失敗です。満タンで自動的に止まるポンプを使えば、目を離しても止まります。手動のポンプを使うなら、タンクの残量を見ながら、最後は少しずつ入れてください。
給油する場所を決めておくのも有効です。土間や屋外の決まった場所で行い、その下に金属のトレーや新聞紙を敷いておく。多少こぼれても、そこで止まります。
ポリタンクの蓋は、パッキンが劣化すると漏れます。蓋を締めても手ごたえが軽い、ゴムがひび割れている、こうした状態なら交換してください。タンク自体の寿命は五年程度が目安です。
量が多いときの判断
コップ一杯程度なら、ここまでの方法で片付きます。しかし、ポリタンクが倒れて十八リットルが全部出た、というような場合は話が変わります。
この量になると、家庭の布や新聞紙では吸いきれません。床材の下、床下、壁の内部にまで入り込んでいる可能性があります。無理に自分で処理しようとせず、まず火の元を止めて全員を屋外へ出し、消防に相談してください。
通報をためらう方が多いのですが、こうした相談は消防の仕事の範囲です。火が出ていなくても、危険な状態を放置するほうが問題になります。電話で状況を伝えれば、必要な対応を指示してもらえます。
屋外で大量にこぼした場合も同様です。側溝や川へ流れ込むと、その先の被害が大きくなります。土に染みた場合は、汚染された土を掘り取る作業が必要になることもあります。自分の敷地であっても、判断は専門家に仰いでください。
集合住宅では下の階も確認する
マンションやアパートでこぼした場合、自分の部屋だけの問題では終わらない可能性があります。
量が多いと、床の継ぎ目や配管の貫通部から下の階へ漏れます。水漏れと同じ経路です。天井にしみが出る、においが下りていく、こうしたことが起こります。
こぼした量が多かったら、自分で片付けながら、早めに管理会社へ連絡してください。後から下の階の住人に指摘されるより、先に伝えておくほうが話が進みます。灯油のにおいは共用廊下にも広がるので、隠し通せるものではありません。
火災保険で対応できる場合もあります。契約の内容によりますが、加入している保険会社に確認する価値はあります。
よくある質問
少量なら放っておいても揮発しますか
ほんの数滴なら揮発しますが、においは残ります。染み込む床材では、放置すると落ちにくくなります。量にかかわらず、すぐ吸い取るほうが結果的に楽です。
お湯で流せば落ちますか
落ちません。灯油は水にもお湯にも溶けず、広がるだけです。洗剤を使うのは、吸い取った後の仕上げの段階です。
においがするのに、こぼした覚えがありません
タンクや器具からの漏れを疑ってください。ポリタンクの底、蓋の周り、ストーブのタンクの接続部を確認します。床にしみが広がっていれば、そこが発生源です。器具からの漏れは、自分で直そうとせず販売店に相談してください。
賃貸で床に跡が残った場合はどうなりますか
退去時の原状回復の対象になる可能性があります。早めに管理会社へ連絡し、状況を伝えてください。隠したまま退去するより、その場で相談したほうが費用は小さく済みます。
吸着材は何を用意しておけばよいですか
専用の油吸着マットが便利ですが、なくても構いません。猫の砂、新聞紙、古タオルで足ります。灯油を扱う季節は、古新聞を捨てずに残しておくだけで、いざというときに困りません。大量にこぼす可能性がある場所には、吸着マットを一袋置いておくと安心です。
におい取りに消臭スプレーを使ってもよいですか
使えますが、順番を間違えないでください。灯油が残ったままスプレーをかけても、においが混ざるだけです。吸い取りと洗浄を終え、換気を数日続けたうえで、それでも残る分に使ってください。アルコールを含む製品は、火の気のある場所では避けます。
こぼした場所でストーブを使い始めても大丈夫ですか
拭き取りが終わり、においがほぼ消えるまでは点火しないでください。床に残った灯油から蒸気が出ている状態で火を使うのは危険です。判断に迷う間は、暖房を別の手段で賄ってください。一日か二日、換気を続けてから再開するのが無難です。
まとめ
灯油をこぼしたら、火を消す、二方向を開けて換気する、外周に堰を作る。この三つを先に済ませてから拭き取ります。水で流さず、吸わせて取るのが基本です。床材によって次の手は変わり、畳とカーペットは繊維の奥まで入るので手間がかかります。そして最後まで気を抜かないでほしいのが、拭き取った布の始末です。丸めて袋に入れると発火します。屋外で広げて乾かしてから捨ててください。
灯油の運搬と保管は灯油の運搬と保管、給油の道具は給油ポンプの選び方、古い灯油の扱いは去年の灯油は使えるかにまとめています。
こぼす原因が器具の不調にある場合は、石油ファンヒーターのエラー表示も確認してください。