照明の交換、換気扇の掃除、カーテンレールの取り付け、庭木の剪定。家庭の作業の多くは、足元に脚立を置くところから始まります。そして、家庭の作業で起きる大きなけがは、工具そのものより、脚立からの転落であることが少なくありません。
この記事の要点
- 天板に立たない、天板をまたがない。転落の多くはここから起きます。
- 高さは「手が届く高さ」から逆算して選びます。低すぎる脚立がいちばん危険です。
- はしごは立てかける角度が約75度。足元を、高さの4分の1ほど壁から離します。
- 椅子や箱で代用しないでください。数千円を惜しむ場面ではありません。
脚立とはしごは、別の道具です
言葉は似ていますが、使い方も危険の種類も違います。
| 脚立 | はしご | |
|---|---|---|
| 形 | A字に開き、自立する | 1本で、壁などに立てかける |
| 向く作業 | 室内の天井まわり、低めの庭木 | 屋根や2階など、高い場所への昇り降り |
| 主な危険 | 横に倒れる、天板から落ちる | 足元が滑る、上部が横にずれる |
| 作業のしかた | 上で作業する | 本来は昇り降りのための道具 |
最後の行が、見落とされがちな点です。
はしごは、上の場所へ移るための道具です。はしごに乗ったまま両手を離して長い作業をするのは、本来の使い方から外れています。体を支えるものが、足元の細い桟だけになるためです。
脚立とはしごの両方に使える兼用型もあります。一台で済むのは便利ですが、切り替えるたびに、ロックが確実にかかっているかを確認する手間が増えます。
高さは、作業する位置から逆算します
脚立選びで最も多い失敗は、低すぎるものを買うことです。
低い脚立で高い場所に手を伸ばすと、どうなるか。
- つい、天板に立ってしまう
- 背伸びをして、かかとが浮く
- 腕を伸ばしきり、体の重心が外へ出る
どれも、転落に直結する姿勢です。
選ぶときは、次の順に考えてください。
- 作業したい場所の高さを測る。天井なら、床から天井までです
- 自分が腕を少し曲げた状態で届く高さを考える。腕を伸ばしきらない位置が作業しやすい高さです
- 天板に立たない前提で、足を置く段の高さを決める。
- その段が確保できる脚立の大きさを選ぶ。
製品には、「天板高さ」が表示されています。足を置ける最も高い段は、それより低い位置にあります。天板高さと同じ高さで作業できるわけではない、という点に注意してください。
一般的な住宅の室内で天井の照明を替えるなら、天板の高さが1メートル前後の脚立が使われることが多いようです。ただし天井の高さは家によって違います。必ず測ってから選んでください。
天板に立ってはいけない理由
脚立の天板は、立つための場所として作られていません。天板の上に立つと、体を支えるものが何もなくなります。膝から下で脚立に触れる部分がなくなり、少しの揺れで重心が外へ出ます。そして、落ちる高さはその脚立でいちばん高い位置です。天板をまたいで、両側に足を置く使い方も危険です。脚立は前後方向の力には比較的強い一方、横方向には倒れやすい形をしています。またいだ姿勢で体をひねれば、横倒しになります。多くの脚立には、天板に乗らないよう注意する表示が貼られています。その表示には、理由があります。
天板に立ちたくなるのは、脚立が低いからです。
だから、前の節で書いた高さの選び方が、そのまま安全につながります。適切な高さの脚立なら、天板に立つ理由がなくなります。
脚立を使うときの決まり
高さが合っていても、置き方と乗り方で危険は変わります。
置く前に
- 床が平らで、硬いかを見る。畳や厚いカーペットは、脚が沈んで傾きます
- 開き止めの金具を、最後までかける。半分だけかかった状態は、見た目では分かりにくいので、手で押して確かめます
- 4本の脚が、すべて床に着いているか見る。1本でも浮いていれば、置き直します
- 扉の前に置かない。家族が扉を開けた拍子に、脚立にぶつかります
畳の上でどうしても使う場合は、厚手の板を敷いて脚が沈まないようにしてください。
乗っているとき
- 体の中心を、脚立の幅の内側に置く。へそが脚立の外に出るほど身を乗り出さないでください
- 届かなければ、降りて脚立ごと動かす。
- 重い物を持って昇らない。工具は腰に下げるか、あとから手渡してもらいます
- 脚立に背を向けて作業しない。足元の段が見えなくなります
- できれば、誰かに脚立を押さえてもらう。
「あと少しで届く」と体を横に伸ばした瞬間が、いちばん危ない場面です。
降りて、脚立を動かして、また昇る。この往復を面倒がらないことが、事故を防ぐ一番の方法です。
動かすときは、段や天板に工具が載っていないかを先に確かめてください。載せたまま動かすと、落ちてきた工具が足や頭に当たります。
そして、開いたまま床を引きずらないことです。脚が段差や敷物に引っかかると、その場で倒れます。軽く持ち上げて運ぶ習慣にしておけば、床も傷めずに済みます。
はしごを立てかけるときの決まり
はしごで最も大事なのは、立てかける角度です。
目安は約75度。言い換えると、立てかけた高さの4分の1ほど、足元を壁から離すということです。高さ4メートルの位置に立てかけるなら、足元は壁から1メートルほど離します。
| 角度 | 起きやすいこと |
|---|---|
| 寝かせすぎ(足元が壁から遠い) | 足元が外へ滑る |
| 立てすぎ(足元が壁に近い) | 昇ったときに後ろへ倒れる |
| 約75度 | 滑りにくく、後ろにも倒れにくい |
角度を確かめる簡単な方法があります。はしごの足元に、つま先をそろえて立ちます。そのまま腕をまっすぐ前に伸ばし、手のひらが桟に届くくらいが、おおよその目安とされています。
ほかにも、守ってほしい点があります。
- 上端を、昇る先の面より上に出す。乗り移るときにつかむ部分が要ります。目安として60センチほど
- 足元に滑り止めがあるか確かめる。ゴムがすり減っていれば交換します
- 上端を固定する。ロープで縛る、あるいは下で誰かが支えます
- 昇り降りは、はしごに正面を向けて、両手で。道具を持ったまま昇らないでください
- 雨どいに立てかけない。雨どいは体重を支える部材ではありません
最後の点は、雨どいの掃除でよく起こります。掃除の手順と注意は、雨どいの掃除で詳しく書きました。
素材による違い
| 素材 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|
| アルミ | 軽い。錆びにくい | 電気を通します |
| 繊維強化樹脂 | 電気を通しにくい | 重い。直射日光で劣化することがあります |
| スチール | 丈夫 | 重い。錆びます |
| 木 | 手触りがよい | 割れや腐りを見落としやすい |
家庭では、軽いアルミ製が主流です。
ただし、屋外で電線の近くを作業するなら、アルミ製は危険です。はしごを立てたり倒したりするときに電線に触れれば、感電します。そもそも、電線の近くでの作業は避けてください。庭木が電線に触れているなら、自分で切らずに電力会社へ相談するのが原則です。
場所ごとの注意
階段
吹き抜けや階段の上の照明は、家庭の中で最も難しい作業場所の一つです。
普通の脚立は、段差のある場所に置けません。本や板で脚の高さを合わせるのは、非常に危険です。
脚の長さを段ごとに調整できる製品を使うか、専門の業者に依頼してください。高さのある吹き抜けなら、依頼するほうが確実です。
庭
屋外では、地面がやわらかく、傾いていることがあります。
- 土の上では、脚が沈みます。板を敷いてください
- 雨上がりは、足元の段が滑ります。
- 風のある日は、使わないでください。
庭木の手入れには、脚が3本の三脚脚立がよく使われます。植え込みの中にも差し込みやすく、でこぼこした地面でも安定しやすい形です。剪定で使う道具は、庭木の剪定に必要な道具にまとめました。
浴室
浴室の天井にある換気扇の掃除などで使う場面です。
床が濡れていたら、完全に乾かしてから置いてください。浴室の床は、水気があると想像以上に滑ります。浴槽のふちに脚をかけるのも避けてください。
使う前に、脚立そのものを点検する
何年も物置に置いていた脚立は、見た目より傷んでいることがあります。
- 脚の先の滑り止めゴムが、残っているか
- 開き止めの金具が、曲がっていないか
- 支柱に、へこみやひび割れがないか
- 段を踏んだとき、きしみやがたつきがないか
- ネジやリベットが、抜けかけていないか
ひとつでも当てはまれば、使わないでください。自分で直して使い続けるより、買い替えるほうが安全です。
特に支柱のへこみは、見過ごされがちです。アルミは一度曲がると、その部分が弱くなります。倒したり、上に物を落としたりした脚立は、念入りに見てください。
買うときに見る表示
| 表示 | 見る理由 |
|---|---|
| 天板高さ | 作業する高さに合うか |
| 最大使用質量 | 体重と、持って昇る道具の重さを足して超えないか |
| 安全基準への適合表示 | 一定の基準で試験された製品かどうか |
| 重さ | 自分で持ち運べるか。重すぎる脚立は、動かすのが面倒になり、無理な姿勢の原因になります |
最後の重さは、安全と関係ないように見えますが、実は効いてきます。
重い脚立は、動かすのが億劫になります。すると、降りて動かす代わりに、身を乗り出して済ませたくなります。自分が気軽に動かせる重さであることも、選ぶ基準に入れてください。
脚立の上で工具を使うとき
脚立そのものが安定していても、上で使う工具が体を揺らすことがあります。
- 電動工具の反動:インパクトドライバーやドリルは、ねじが止まった瞬間などに本体を回される力が来ます。地面の上なら踏ん張れても、脚立の上では体ごと振られます
- 両手がふさがる作業:体を支える手がなくなります。膝や太ももを脚立に当てて体を固定できる高さで作業してください
- コードの付いた工具:垂れたコードに足を取られます。脚立の脚に引っかけないよう、取り回しを先に決めます
- 段の上に置いた工具:脚立を動かしたときに落ちてきます。下にいる人に当たることもあります
とくに電動工具は、弱い設定から始めて、強く握って使うことを守ってください。反動の大きさは工具の種類で違います。インパクトドライバーとドリルドライバーの違いは、インパクトドライバーとドリルドライバーの違いで書きました。
しまうとき
作業が終わったら、立てたまま置いておかないでください。小さな子どもは、開いた脚立を見ると登りたがります。人がぶつかって倒れることもあります。
畳んだら、倒れないように壁際へ寄せるか、横にして置きます。屋外に出しっぱなしにすると、滑り止めのゴムや樹脂の部品が日光で傷みます。雨の当たらない屋内にしまうのが、長く安全に使うための近道です。
よく聞かれること
Q. 椅子で済ませてはいけませんか
A. おすすめしません。
椅子は座るための形をしています。上に立って、上を向き、両手を上げる姿勢を支える作りではありません。キャスター付きの椅子や、回転する椅子は論外です。
天井の照明を替える話は、照明器具の取り付け・交換でも書きました。そこでも、いちばんの危険は感電ではなく転落だとお伝えしています。
Q. 2階の屋根や雨どいは、自分でやってもいいですか
A. 私は、業者への依頼をすすめています。
2階の高さからの転落は、命に関わります。慣れた人でも、はしごの角度、足元、上での姿勢がすべて揃わないと安全を保てません。
1階の雨どいや、脚立で届く範囲の作業を自分でやる。2階以上は依頼する。この線引きが現実的です。
Q. 年齢が上がってきたので不安です
A. その感覚は大切にしてください。
高齢の方の脚立からの転落は、公的機関からも繰り返し注意が呼びかけられています。バランスを崩したときに立て直す力や、落ちたときの体への影響は、年齢とともに変わります。
家族に頼む、低い脚立で済む工夫をする、依頼する。「昇らない」という選択肢を最初に考えることも、立派な安全対策です。
Q. 脚立は、どのくらいで買い替えるものですか
A. 年数より、状態で判断してください。
屋内で丁寧に使えば長くもちますが、屋外に置きっぱなしにしたものや、倒したことのあるものは傷んでいます。前に挙げた点検の項目で、ひとつでも気になる点があれば替えどきです。
最後に
- 天板に立たない、またがない。
- 高さは作業する位置から逆算して選ぶ。
- はしごは約75度。足元を高さの4分の1ほど離す。
- 身を乗り出さず、降りて動かす。
- 電線の近くではアルミ製を使わない。そもそも近づかない。
- 2階以上の高さは、依頼を考える。
脚立は、工具の中でいちばん目立たない存在かもしれません。
ですが、ほかのどの工具を使う作業も、足元が安定していなければ始まりません。高い場所での作業を考えたら、ドライバーより先に、脚立を見直してください。