整備のあとに残る、油でべたべたになったウエス。これを丸めてごみ袋に入れ、そのまま置いておくのは危険です。油を含んだ布は、火を近づけなくても、それ自体が熱を出して燃え出すことがあります。実際に、工場や家庭のごみ置き場で火災が起きています。ここでは、なぜそんなことが起きるのかという理屈と、家庭でできる安全な処理の手順をまとめます。
この記事の要点
- 油の付いた布は、丸めて袋に押し込まないでください。熱がこもって発火することがあります。
- 安全なのは、広げて屋外で乾かすか、水を十分に含ませて密閉するかのどちらかです。
- 危険度が高いのは、植物油や、乾いて固まる性質の油が付いた布です。
- エンジンオイルやグリスの布は、比べれば危険は小さいものの、放置してよい理由にはなりません。
- 出す区分は地域によって違います。燃やすごみで出せる地域が多いものの、量が多い場合は相談してください。
なぜ火を近づけなくても燃えるのか
この現象は、酸化による発熱という仕組みで説明できます。順を追って見ていきます。
油が空気に触れると、ゆっくりと酸素と結びつきます。このとき、わずかな熱が出ます。ふだんは気づかない程度の熱ですが、布が油を薄く広げることで、空気に触れる面積が一気に増えます。そして布を丸めると、内側で出た熱が逃げ場を失います。
熱がこもると、酸化の速さが上がります。速くなればもっと熱が出て、さらに温度が上がる。この繰り返しで、条件が重なれば、やがて布そのものが燃え出します。火の気がなくても燃えるのは、このためです。
とくに危険なのが、乾くと固まる性質を持つ油です。塗料に使われる油、亜麻仁油、桐油などが代表です。これらは酸化して固まることで塗膜を作る性質があり、その反応そのものが熱を出します。
エンジンオイルやグリスは、固まる性質が強くありません。そのため危険度は下がりますが、ゼロではありません。汚れた油は、金属の粉や燃えかすを含んでいます。混ざりものがあると、予想が立てにくくなります。
どんな条件が重なると危ないのか
すべての油布が燃えるわけではありません。むしろ、ほとんどの場合は何も起きずに終わります。危ないのは、次の条件がいくつか重なったときです。一つだけなら心配はいりませんが、重なるほど危険が増していきます。
- 布を丸めている、または重ねて積んでいる(熱が逃げない)
- 密閉した袋や箱に入れている(熱がこもる)
- 周りの温度が高い(夏の車内、暖房の近く、日の当たる場所)
- 量が多い(内側の温度が上がりやすい)
- 乾いて固まる性質の油が付いている
逆に言えば、広げて風が通る場所に置けば、熱は逃げていきます。危険を避ける方法は、意外なほど単純です。
作業のあと、そのままの流れでごみ袋に押し込み、玄関の内側に置いておく。これが、いちばんやってはいけない形です。夏なら室内の温度も上がります。
家庭でできる処理の手順
方法1:広げて乾かす
もっとも確実なのがこれです。屋外の風通しのよい場所で、布を広げて乾かします。物干しに掛ける、金網の上に並べる、コンクリートの上に広げる、どれでも構いません。
重ねないことが大事です。一枚ずつ離して広げてください。油の量が多い布は、乾くまで数日かかります。
乾いた布は、油が固まって布に閉じ込められた状態になります。ここまで来れば、発熱の心配はほとんどなくなります。そのうえで、地域の区分に従って出してください。
乾かす場所については、火の気がないこと、子どもやペットが触れないことを確かめてください。また、風で飛ばないように、重しを置くか洗濯ばさみで留めます。
方法2:水を含ませて密閉する
乾かす場所がない場合や、すぐに片付けたい場合は、水をたっぷり含ませてから、ふた付きの容器か、口を縛れる厚手の袋に入れます。
水があると、酸化で出た熱が水に吸われ、温度が上がりません。少し湿らせる程度では足りません。しっかり濡らしてください。
そのうえで、収集日の朝に出すのが理想です。何日も置くなら、屋外の日陰に置いてください。金属のふた付き容器を使うと、より安心です。
方法3:量が多いときは相談する
バケツ一杯になるほどの量が出た場合は、家庭ごみに出す前に清掃の窓口へ相談してください。家庭から出る量としては多すぎる、と判断されることがあります。
事業として整備を行っている場合は、そもそも家庭ごみに出せません。油の付いた布は産業廃棄物にあたります。許可を持つ業者への委託が必要です。
やってはいけないこと
- 丸めてごみ袋に押し込み、室内に置く
- 段ボール箱にまとめて積んでおく
- 車のトランクに入れたまま忘れる
- 洗濯機で洗う
- 乾燥機に入れる
- 燃やして片付ける
洗濯機で洗うのは、避けてください。油が槽の内側に残り、次に洗う衣類に移ります。排水に油を流すことにもなります。そして、洗ったあとに乾燥機へ入れるのは、とくに危険です。熱が加わるうえに、回転する中で布が重なります。
屋外で燃やす行為は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律で、例外を除いて禁じられています。油の煙は近所にも迷惑がかかります。
どんな場面で起きているか
油布による火災は、消防の資料でも注意が呼びかけられている事故です。共通しているのは、「作業が終わって、人がいなくなったあと」に起きている点です。
よく挙がるのが、木工や塗装の現場です。塗料や乾性油を拭いた布を、まとめてごみ箱に入れて帰る。翌朝、そのごみ箱から煙が出ている。この形が典型です。
家庭では、車の整備のあとと、家具のオイル仕上げのあとが要注意です。とくに木の家具や床にオイルを塗る作業は、乾いて固まる性質の油を使うため、危険度が上がります。
もう一つ、意外なのが食用油を拭いた布です。台所の油汚れを拭いた布を、丸めてごみ箱に置く。これも同じ理屈で熱を出します。整備に限った話ではありません。
季節によって危険度が変わる
同じ油布でも、季節によって条件が変わります。
夏は、周りの温度が高いこと自体が危険を上げます。気温が30℃を超える日に、日の当たる場所や車内に置けば、出発点の温度が高いところから酸化が進みます。
冬は、乾きにくいという別の問題があります。広げて乾かすまでの時間が延びるため、その間に丸めてしまわないよう気をつけてください。暖房の近くで乾かすのは、温度が上がるので避けます。
梅雨の時期も、乾きが悪くなります。この時期は、乾かす方法より、水を含ませて密閉する方法のほうが確実です。
作業のあとに確かめること
整備が終わって片付けるとき、次の点を順に見てください。習慣にすれば、考えずにできるようになります。
- 使った布をすべて集めたか。車の下やエンジンルームに置き忘れた布が、走行中に熱い部分に触れることがあります。
- 丸めたままになっていないか。広げるか、濡らすかを、その場で決めます。
- 置き場所は屋外の日陰か。物置や車内に入れていないかを確かめます。
- 吸着材や砂を使ったなら、それも同じ扱いにしたか。
- 家族に伝えたか。知らない人が片付けて、袋に詰めてしまうことがあります。
最後の項目は、見落とされがちです。自分が置いた油布を、家族が「散らかっている」と思って袋にまとめるという形で、危ない状態が作られることがあります。置き場所を決めて、そこに置くと伝えておくのが確実です。
ウエスそのものの選び方
処理を楽にするには、使うものを選ぶところから考えられます。何を使って拭くかで、あとの手間と危険度が変わります。
| 種類 | 向いている場面 | 処理のしやすさ |
|---|---|---|
| 古いタオル・肌着 | 大量の油を拭く | 厚いので乾きにくい |
| 市販のウエス(布の切れ端) | ふだんの整備全般 | 薄手なら乾きやすい |
| 紙ウエス(ロールの不織布) | 少量の油、仕上げの拭き取り | 薄く広げやすい |
| 吸着マット・吸着パッド | こぼした油の回収 | 量に応じて使う枚数を調整できる |
厚手のタオルは吸う量が多い反面、内側が乾くまで時間がかかります。発熱の話でいえば、厚く重なった状態が長く続くということです。
薄手の布や紙ウエスは、1枚あたりの吸う量は少ないものの、使ったあとに広げて乾かしやすいという利点があります。処理まで考えると、こちらのほうが扱いやすいと感じています。
こぼした油を拭くときの段取り
床や地面に油をこぼしたときは、布で拭く前にやることがあります。
- 広がる前に、砂や猫砂、専用の吸着材をかけます。まず面積を止めるのが先です。
- 十分に吸わせてから、ほうきで集めます。集めたものは、袋に入れて口を縛ります。
- 残った薄い油を、布で拭き取ります。ここで初めて布を使います。
- 洗剤を使う場合は、最後に少量で。水で流して広げないでください。
最初から布で拭こうとすると、布が何枚も必要になり、処理する量が増えます。吸着材で大半を取ってしまえば、布は仕上げの1枚か2枚で足ります。
油を吸った砂も、油の付いたごみです。丸めて放置せず、その日のうちに出し方を決めてください。
保管中の油布をどう置くか
収集日まで数日ある、という場面がほとんどだと思います。そのあいだの置き方を、具体的に書いておきます。
金属のふた付きバケツがあれば理想的です。工場では、油布の専用容器としてこの形が使われています。ふたを閉めれば酸素の供給が減り、金属なので万一の場合も周りに火が移りにくくなります。
ない場合は、屋外の日陰、建物から少し離れた場所に、広げて置いてください。雨に当たっても構いません。むしろ水に濡れているほうが安全です。
置いてはいけない場所を挙げます。物置の中、車のトランク、家の中の玄関や洗面所、暖房器具の近く、日の当たるベランダ。どれも温度が上がる、あるいは熱が逃げない場所です。
万一、煙が出ていたら
置いていた油布から煙やにおいが出ているのに気づいた場合、あわてて動かさないでください。持ち上げた瞬間に空気が入り、炎になることがあります。
まず、周りの燃えやすい物を離します。そのうえで、水をかけて十分に濡らします。布は水を吸いにくいので、表面にかけるだけでは足りません。バケツの水に沈めるつもりで、量をかけてください。
すでに炎が出ている、あるいは周りに燃え移りそうだと感じたら、自分で消そうとせず、避難して119番に通報してください。油の火災は、水をかけると飛び散って広がる場合があります。判断に迷う状況では、消火より通報と避難が先です。
ふだんの備えとして、作業する場所の近くに、水を入れたバケツか消火器を置いておくと安心です。整備に限らず、燃料や油を扱う作業では、これが基本になります。
よくある質問
Q. 少しだけ油が付いた布でも、そんなに危ないのですか。
A. 1枚を広げて風の通る場所に置くだけなら、まず問題は起きません。危ないのは、量が多く、丸めて、暖かい場所に置いたときです。ふだんの整備で出る数枚を、広げて乾かして出すのであれば、過度に心配する必要はありません。
Q. 灯油やガソリンを拭いた布はどうですか。
A. こちらは酸化による発熱ではなく、蒸発した燃料の蒸気に火が付く危険のほうが問題になります。屋外の風通しのよい場所に広げ、においが消えるまで乾かしてください。乾くまでは、火の気に絶対に近づけないでください。
Q. 拭いた布を、次の作業でまた使ってよいですか。
A. 油を拭き取る用途なら使い回せます。ただし、ためこまないでください。使いかけの油布が箱にたまっていく状態が、いちばん危ない形です。作業が終わるごとに、乾かすか処分するかを決めてください。
Q. 自然発火は、どのくらいの時間で起きるのですか。
A. 条件によって大きく変わるので、時間で言い切ることはできません。数時間で起きた例も、数日たってから起きた例も報告されています。「今まで大丈夫だったから平気」と考えないでください。温度や量が違えば、結果も変わります。
まとめ
油の付いた布は、丸めず、広げる。これが結論であり、覚えることはこれだけです。酸化で出た熱が逃げていけば、危険はほとんどなくなります。
すぐ片付けたい場合は、水をたっぷり含ませて密閉します。屋外の日陰に置き、収集日に出せば十分です。
そして、油をこぼしたときは、布で拭く前に吸着材で吸わせてください。処理する布の枚数が減り、後始末もずいぶん楽になります。オイル交換の道具立てはエンジンオイル交換に必要な工具、抜いた油の行き先はエンジンオイルの捨て方にまとめました。
床にこぼした場合はこぼしたオイルの片付け方、処理箱の出し方は廃油処理箱の捨て方、溶剤の保管はパーツクリーナーの保管で扱っています。