工具は、種類も価格の幅も広く、何から買えばよいのか分かりにくい買い物です。しかも、買った後で「これでは回せなかった」と気づくことがあります。ここでは、作業から逆にたどって工具を選ぶという考え方で、最初の一式から、締める・回す・切る・つかむといった役割ごとの選び分けまでを一つにまとめます。細かい話はそれぞれの記事に譲り、この記事では買う順番と、失敗の避け方に絞ります。
この記事の要点
- 工具は作業から決めます。「持っていると便利そう」で買った物は、たいてい使いません。
- 最初の一式は、ドライバー・六角レンチ・メジャー・めがねレンチあたりで足ります。
- 同じ「回す」でも、数字で締める必要がある場所だけは、専用の道具が要ります。
- 安い工具でいちばん困るのは、ねじや部品を壊してしまうことです。修理代のほうが高くつきます。
- 作業の前に、足場と、体を守る物を用意してください。工具より優先度が高い場面があります。
買う前に、作業を一つ決める
工具選びで失敗する人には、共通した順番があります。先に道具をそろえて、あとから使い道を探すという順番です。
私は逆をおすすめしています。棚を付けたい、自転車の整備をしたい、車のオイルを替えたい。まず作業を一つ決めて、そこで必要になる物だけを買う。これを何回か繰り返すと、気づいたときには、その人の暮らしに合った工具箱ができあがります。
理由は二つあります。一つは、使わない工具は、どれだけ良い物でも役に立たないという単純な話です。もう一つは、作業を決めると、必要な精度が決まることです。同じドライバーでも、家具の組み立てと、精密機器の分解では、選ぶ物が変わります。
とはいえ、何を買うにも共通して出番の多い物はあります。最初の一式をどう組むかは最初に揃える工具にまとめました。そろえる順番に迷ったら、ここから読んでください。
回す道具を選ぶ
ねじを回す
ドライバーで大事なのは、値段より先端の形と大きさが合っていることです。ねじの溝に対して小さすぎる先端を使うと、力が一点に集まり、溝が削れます。
削れてしまったねじは、途端に厄介になります。外し方には段階があるので、その手順をネジがなめた・回らない時の対処にまとめました。先に読んでおくと、なめる前に手を止められるようになります。
家具や自転車では、六角の穴が開いたねじもよく使われます。この形は、工具が斜めに入ったまま回すと、内側から丸くなります。選び方と、力の入れ方は六角レンチの選び方に書きました。
ナットやボルトを回す
ここは種類が多く、迷いやすいところです。ただ、覚えることは多くありません。六面を囲めるものを優先する、これが基本です。
二方向から挟むだけの形は、力をかけると角を削ります。囲む形のほうが、同じ力でも部品が傷みません。それぞれの得意な場面はレンチの種類と使い分けで整理しました。
車やバイクを触るなら、ソケットを使う道具が中心になります。このとき最初に決めるのが、ソケットと持ち手をつなぐ四角い部分の大きさです。ここを間違えると、後から買い足す物がすべて合わなくなります。詳しくはソケットの差込角の選び方を読んでください。
数字で締める
ふつうの工具は、どれだけ締まったかを教えてくれません。多くの場所ではそれで構いませんが、締めすぎても、緩くても危ない場所があります。車のホイールナットが代表です。
そういう場所のために、決めた力で止まる道具があります。選び方、使ったあとの保管、そして緩めるのに使ってはいけない理由はトルクレンチの選び方と使い方にまとめました。これは工具というより測る道具だと考えると、扱い方がすっきり分かります。
つかむ、切る道具を選ぶ
見た目の似た道具が並ぶ分野です。けれど、役割ははっきり分かれています。つかむ、曲げる、切る、そして口の開きを変える。この4つのどれが要るのかで、買う物が決まります。
一本で何でもこなそうとすると、どれも中途半端になります。とくに、切るための刃で硬い針金をつかんだり、つかむための道具で線を切ったりすると、刃こぼれの原因になります。使い分けはペンチ・ニッパー・プライヤーの違いにまとめました。
木を切る作業は、少し事情が違います。まっすぐ切るのは、道具よりも慣れが要るためです。木工を始めるなら、最初は切らずに済む設計にして、組み立てに集中するほうが、完成する確率が上がります。考え方は木工DIYを始める工具に書きました。
電動工具は、いつ買うか
電動工具は、あると作業が一気に楽になります。ただ、最初の一台としては、少し待ったほうがよいことも多いのです。
理由は、手で回す作業を一度経験すると、どのくらいで止めればよいかの感覚が身につくからです。いきなり強い機械を使うと、締めすぎて部品を壊す失敗が増えます。
買う段になったら、穴を開ける機械と、ねじを締める機械の違いを押さえてください。見た目が似ていて、得意な仕事が違います。選び分けはインパクトドライバーとドリルドライバーの違いにまとめました。
棚や、カーテンレールのように壁に物を留める作業では、機械よりも先に、下地を探す道具が要ります。どこに柱があるかを知らずに留めたねじは、いずれ抜けます。壁に棚を付ける工具とカーテンレールの取り付けに、探し方を書きました。
分野ごとに、最初の一本を決める
やりたいことが決まっている方のために、分野ごとに「これがないと始まらない」という物を挙げます。ここから買い足していけば、無駄が出にくくなります。
自転車なら、六角レンチです。各部の多くが六角の穴で留まっているので、これ一組で点検の範囲が大きく広がります。空気入れと合わせて用意すると、日々の手入れが回り始めます。何をどこまでそろえるかは自転車の整備に必要な工具にまとめました。
車なら、ソケットの一式です。ただし、タイヤに関わる作業をするなら、締め付けを測る道具まで含めて考えてください。どこまで自分でやるかの線引きは車の整備をどこまで自分でやるかに書きました。
家の中の用事なら、ドライバーと下地を探す道具です。家具の組み立てだけなら付属の工具でも足りますが、一本きちんとした物があると、作業の速さも仕上がりも変わります。組み立て家具に必要な工具を参考にしてください。
庭や屋外なら、手で使う刃物からです。いきなりエンジンの機械を買うより、まず手の道具で作業の量をつかむほうが、失敗が少なくなります。庭木については庭木の剪定に必要な道具にまとめました。
売り場で確かめたい3点
店頭で手に取って選べるなら、短い時間でも構わないので、次の点を見ておいてください。
一つ目は、手に当たる部分の形です。力を入れる工具ほど、握りの太さが合っているかで疲れ方が変わります。手の小さい方が太い柄を選ぶと、力が入らず、結局しっかり締められません。
二つ目は、合わせ面のがたつきです。口が開く工具や、可動部のある工具は、動かしたときの遊びが少ないほうが、相手の部品を傷めません。
三つ目は、大きさの表示が読めるかです。刻印が浅い物は、使っているうちに消えます。数字が読めない工具は、毎回当てて確かめることになり、地味に手間が増えます。
通信販売で買う場合は、この3点を確かめられません。そのぶん、返品の条件と、寸法の表記を先に読んでおいてください。写真では、大きさの感覚がつかみにくいものです。手元の定規を並べて、実際の長さを思い浮かべてから注文すると、届いてからの後悔が減ります。
安い工具と高い工具の、本当の差
「安い工具は、すぐ壊れるから損」と言われます。私は、少し違う見方をしています。工具そのものが壊れることより、相手の部品を壊すことのほうが痛いのです。
安い工具は、寸法の精度がゆるいことがあります。ねじの溝や、ナットの角に、きちんと噛みません。そのまま力をかければ、削れるのは工具ではなく、相手のほうです。削れたねじを外す作業は、時間も費用もかかります。
だからといって、最初から高級品をそろえる必要はありません。私の考える線引きはこうです。力が直接かかる部分に触れる工具は、ある程度の物を選ぶ。それ以外は、手ごろな物で始める。ドライバーの先、レンチの口、六角の先端。この3つに絞れば、出費は抑えられます。
そして、使う回数が年に一度以下なら、借りる、あるいは頼むという選択も現実的です。高圧洗浄機や大きな機械は、置き場所と手入れの手間もかかります。持つことが目的にならないよう気をつけてください。
工具より先に用意するもの
作業によっては、工具より先に用意しておくべき物があります。どれだけ良い工具をそろえても、これが欠けていると、作業そのものを安全に進められません。
高い場所の作業なら、まず足場です。椅子やテーブルの上に立つのは、工具の善し悪し以前の問題になります。選び方と、上で守ってほしいことは脚立とはしごの選び方と安全な使い方にまとめました。
車体の下に入るなら、支える道具が要ります。ジャッキは持ち上げる道具であって、支え続ける道具ではありません。この区別はリジッドラック(ウマ)の選び方に書きました。
そして、目と手を守る物です。金属を削る、木を切る、薬剤を使う。どれも、破片や飛沫が飛びます。保護めがねと手袋は安い買い物ですし、一度でも役に立てば、十分に元が取れます。
資格が要るかどうかを先に調べる
工具をそろえれば、どんな作業でもできるわけではありません。電気とガスに関わる工事には、資格や届け出が必要な範囲があります。
この線引きは、道具の有無とは関係なく決まっています。買ってから知ると、使えない工具が手元に残ります。全体像はDIYでやってよい工事の境目に、電気については電気工事に必要な工具と資格にまとめました。
賃貸にお住まいの場合は、法律とは別に、契約上できないこともあります。穴を開ける前に、賃貸でできるDIYの範囲で確認してください。
買ったあとの置き方
工具は、しまい方で寿命が変わります。とくに困るのは、さびと、行方不明の二つです。
さびは、湿気と、使ったあとの汚れから進みます。作業のあとに一拭きするだけで、ずいぶん違います。屋外で使う機械の、季節をまたぐ保管についてはエンジン機械の冬の保管にまとめました。
行方不明のほうは、置き場所を決めるしかありません。箱の中で重ねると、下の物が取り出しにくくなり、結局使わなくなります。よく使う数本だけ、取り出しやすい場所に置く。これだけで、作業に取りかかるまでの時間が短くなります。
よくある質問
Q. たくさん入ったセット品は、買いでしょうか。
A. 一長一短です。よく使う大きさが一通りそろう利点はありますが、使わない物の分まで払っていることにもなります。作業の当てがある方は、必要な物を単品で選ぶほうが満足度が高くなりがちです。
Q. ミリとインチは、どう見分ければよいですか。
A. 国内で流通する車や家具は、ほとんどがミリです。輸入の自転車や一部の機械では、インチの部品が使われていることがあります。わずかに大きい工具を無理にはめると、角を削ります。ぐらつきを感じたら、いったん手を止めてください。
Q. 中古の工具はどうですか。
A. 手で回す工具なら、状態を見て選べば十分に使えます。ただし、測る道具と、電池で動く道具は避けたほうが無難です。前者は精度が分からず、後者は電池が消耗していることが多いためです。
Q. 何をどこまでそろえれば「一通り」と言えますか。
A. 家の中の用事なら、ドライバー、六角レンチ、メジャー、ペンチ、カッター、脚立でほぼ足ります。車を触るなら、そこにソケットの一式と、支える道具が加わります。それ以上は、やりたい作業が出てきてからで構いません。
まとめ
工具選びは、知識をたくさん集めるための作業ではありません。やりたいことを一つ決めるところから始まります。作業が決まれば、必要な道具は自然に絞られ、迷う時間が短くなります。
そのうえで、力が直接かかる部分に触れる工具だけは、少し良い物を選んでください。守るのは工具ではなく、相手の部品です。ここを外さなければ、大きな失敗はほとんど起きません。
そして、足場と、目と手を守る物を忘れずに。工具箱の中身より、その日を無事に終えられるかどうかのほうが、ずっと大切です。
ここに関わる内容として、ディスクグラインダーの使い方、工具の収納も書いています。
